「あのー、どうでもいい事なんですが」。ラジオ番組でのトーク中、俳優の杉本哲太さんが切り出した。「僕の名前は『てつた』じゃなくて『てった』なんです」。共演していた大ベテランのタレントは恐縮して、「てつた」と何度も呼んだことを謝った。冒頭の発言は芸能界の大先輩への遠慮で、杉本さんにとっては「どうでもいい事」ではなかっただろう。
聞いていた私は、「哲太」の「つ」が促音(小さい「つ」)かどうか意識していなかったので、職業柄少し恥ずかしくなった。校閲の仕事をしていて、人名や地名の振り仮名(ルビ)に「つ」がある場合、促音かどうかの確認も必要になる。「杉本哲太」のルビを「すぎもと てつた」としてしまわないように。
資料によって「つ」の大小が異なることは、市町村内の地区名などに時々ある。市町村名でも北海道東部の「別海町」が同様だ。結論から言うと、毎日新聞では町側の自称に従い「べつかい」と「つ」を大きく書く。しかし、「べっかい」と「つ」を小さくした事典類は少なくない。
実は町内でも町名の「つ」の大小が問題になった。町役場側は「町制施行(1971年)を機に『べつかい』と統一した」としていたが、2007年に町議会で疑問が呈された。そこで町教委が町名の歴史的背景を文書にとりまとめ、さらに「町名呼称検討員会」が設置された。
それらを受けて09年の議会で町長が次のように答弁している。「『べつかい』『べっかい』のどちらにも正当性があり、否定する根拠がない。両方とも容認することが望ましい。公式には、今までどおり『べつかい』とする」
中途半端だと思う人もいるだろうが、口頭で「べっかい」と言う町民が少なくないのであれば、妥当な結論だと思われる。
いずれにせよ、「別海」にルビが付いた原稿が出てきた時には、「つ」が小さくなっていないか注意しなければならない。「つ」の大小は、私たちの仕事にとっても「どうでもいい事」ではないのである。
【中高正博】