「n倍高い」のような表現について伺いました。
目次
「高いは不要」が7割占める
メタンの温室効果は二酸化炭素に比べ「25倍高い」――カギの中、どう感じますか? |
違和感がある。「25倍だ」などとしたい 68.9% |
違和感はない 31.1% |
「n倍高い」という表現には、違和感があると答えた人が約7割と多数を占めました。「Aの高さ:Bの高さ=n:1」であることを表すには「AはBのn倍だ」とすれば十分で、「高い」は不要と捉える人が多いようです。
「nメートル高い」なら「差」を表すが…
「高い」「多い」「大きい」などの形容詞に数量を表す言葉が組み合わさり、「AはBよりnメートル高い」「n個多い」などと書かれる時、その数量はAとBの差を表します。
「nメートル」「n個」が単位を伴って一定の数量を表す一方、「n倍」は決まった数量ではなく、基準となる数に対して、同数・同量を何回か加えた数量を表します。AとBの差分(足し算・引き算)ではなく、かけ算をもとにした表現です。
「メタンの温室効果は二酸化炭素に比べ25倍高い」という質問文の例は、二酸化炭素の温室効果を1とした時に、メタンの温室効果が25であることを表していました。しかし「nメートル高い」などの言い方からの類推で、「二酸化炭素の温室効果を25倍したぶんだけ、メタンの温室効果が高い」、すなわち「二酸化炭素の1に対しメタンが26」と読むこともできてしまい、混乱したり、気持ち悪さを覚えたりする人もいるかもしれません。こじつけのようですが、7割もの人が「違和感がある」と回答しており、誤りではなくとも「なんとなく変」な表現ではあるのでしょう。
誤解される可能性は小さいか
毎日新聞の過去の記事や青空文庫などで確認できた用例では、「n倍高い」は「n倍だ」と同じ意味で使われています。上述した違和感はあるものの、捉え方に迷うほどに紛らわしい場合は少なく、おおむね誤解なく受け入れられているようです。
ただ通常であれば「n倍」と表現した時点で、もとの数量よりも高い(多い、大きい)ことを表します(分野によっては「n分の1倍」や「マイナスn倍」などの言い方もあり、その場合は元の数より小さくもなりますが、ややこしくなるので新聞では一般的に見かけません)。「高い」と付け加えずとも、対比は伝わるのではないでしょうか。
表現に工夫の余地あり
質問文を例にするなら「メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍だ」で十分に意味は通じますし、「メタンの温室効果が高い」ということをとりわけ強調したければ、「メタンの温室効果は【高く、】二酸化炭素の25倍だ」などと補うのはいかがでしょう。多くの人にとって違和感が小さく、読みやすい表現を心がけたいです。
(2022年02月18日)
過去のアンケート(参考記事)で、「『1.5倍増』といった時、元の数字からどれだけ増えたと捉えるか」を伺ったことがありました。「1.5倍に増えた(50%増)」のか、「1.5倍ぶん増えた(150%増)」のか、紛らわしい場合があるという結果でしたが、では、「~倍高い」「~倍多い」「~倍大きい」などについてはいかがでしょうか。▲「n倍高い」と書かれていたら通常は「n倍の高さである」と理解されるはずです。誤解の余地はさほどなく、実態としてもその意味で使われています。ただし、「n%高い」「nメートル高い」など、差異のぶん(幅)の数量だけを「高い」に直接つなげる表現も多いため、トータルの量である「n倍」と「高い」を組み合わせるのはしっくりこないと捉える人もいるでしょう。単に「n倍」で十分ではないかとも考えられます。▲前後のつながりや字数が許すなら「n倍の高さだ」、せめて「n倍と高い」などにできないだろうかと出題者は思いつつも、結局直さず通してしまうのですが、違和感を持つ人はどれくらいいるでしょうか。
(2022年01月31日)