「縄文土器」と「縄文式土器」のどちらで覚えているか、うかがいました。
目次
縄文「式」が6割占める
日本の歴史でおなじみのものですが――どちらで覚えていますか? |
縄文土器 42.8% |
縄文式土器 57.2% |
おおよその結果は「縄文式土器」6割、「縄文土器」4割となりました。年齢を同時に聞いたアンケートではなかったので推測でしかありませんが、比較的回答者の年齢が高めだったのかもしれません。
なぜ「式」が取れたか
職場の古い資料をひもとくと、1974年に第2版が発行された「角川日本史辞典」では「縄文式土器」。それが88年の「日本史用語集」(山川出版社)では「縄文土器」となっています。70年代が転機になったことがうかがえます。教科書が変わったのはそれよりしばらく後ですが、中学歴史教科書を確認した限りでは、今は全て「縄文土器」でした。
ではなぜ変わったのでしょう。考古学者の故・佐原真さんが唱えたそうですが、その佐原さんが編集に携わった「日本考古学事典」(三省堂)の「弥生土器」の項にこうあります。
弥生式土器を細分した遠賀川式土器や須玖(すく)式土器などの呼称も生まれ、「式」には、縄文式土器と弥生式土器とを対比する場合の「式」と、弥生式土器の細分としての「式」との2通りの意味があるようになった。そのため、1975年以来、「式」をはずした縄文土器と弥生土器の呼称を採用するようになった。
ということで、教科書も90年代から「縄文土器」となったようです。こういう用語変更は広く報道されることがあまりないため、今も「縄文式土器」はよく見られます。三浦しをんさんの近著「エレジーは流れない」(双葉社)でも「縄文式土器」と書かれていました。
pHは「ペーハー」から「ピーエイチ」に
他にもいつの間にか変わっていた例は多くあります。「その言葉、もう使われていませんよ」(KAWADE夢文庫)から、いくつか挙げてみましょう。
リアス式海岸→リアス海岸
大和朝廷→ヤマト王権(「新もういちど読む山川日本史」では「ヤマト政権」)
小乗仏教→上座部仏教
(蘇我氏を滅ぼした)大化の改新→乙巳の変(大化の改新はその後の改革をいう)
オスマントルコ→オスマン帝国、オスマン朝
四大工業地帯→三大工業地帯(北九州が陥落)
pH(水素イオン指数)の読み ペーハー→ピーエッチ
最後のpHは、同書によれば「当初はドイツ語由来で『ペーハー』と読まれていましたが、1957年にはすでにJIS(日本工業規格)が『ピーエッチ』を正式名称と定めていました」とあります。しかし最近発行の中学教科書を5種調べると、いずれも読みは「ピーエッチ」ではなく「ピーエイチ」となっていました。「エッチ」も時代がかった言い方になりつつあります。
しかし、引用部で別の重大な問題があります。それはJISの日本語「日本工業規格」です。実は2019年7月施行のJIS法改正により「日本工業規格」は「日本産業規格」に名称変更されていました。この本が発行されたのは21年3月なので、その時点では変わっていたということです。もちろん57年には「日本工業規格」だったので、当時の表記としては誤りではありません。しかし「その言葉、もう使われていませんよ」というタイトルの本としては、少なくとも旧称と今の名称の併記は必要でした。全く、どこにトラップが潜んでいるかわかりませんね。
「士農工商」は序列を意味しない
古代の農民の義務「租・庸・調」も、最近の教科書では「租・調・庸」と順序が代わりつつあるようです。「新もういちど読む山川日本史」でも「租・調・庸」とありました。
この本では「士農工商」も長い注釈で注意喚起しています。
かつては近世の身分序列を一言で理解できる語として定着したが、近年は当時の実態とかなりずれた理解をあたえかねないとして、慎重に取り扱われる。(中略)「農・工・商」の三身分の間には制度上の上下関係はなく、実態としても「工・商」はあわせて町人として都市に住み、(中略)百姓身分と町人身分との間には、制度上、上下関係はなかった。
このように、教科書では以前習ってきた用語が次々と覆されています。「縄文式土器」にしても、「式」のあるなしで本質的な違いがあるわけではなく、従来の用語も全否定されているわけではないと思います。しかし学校教育の素材として用いられることも多い新聞としては、教科書の扱いに目を背けたままではいられません。
(2021年07月09日)
「北海道・北東北の縄文遺跡群」 が世界文化遺産に登録される運びになり、縄文時代が脚光を浴びています。皆さんは学校で「縄文土器」「縄文式土器」のどちらで教わりましたか? お忘れだとしたら、どちらの用語になじみがありますか?
例えば新明解国語辞典は1997年の第5版まで「縄文」の用例として「縄文式土器」とあったのが、2005年の第6版で「縄文土器」に変わっています。広辞苑ではもっと早く、1991年の第4版で「縄文土器」になっていました。
いつの間にか教科書でもこの変更が行われていて、現在発行されている5社の中学歴史教科書を調べるとすべて「縄文土器」になっていました。
「その言葉、もう使われていませんよ」(KAWADE夢文庫)によると、考古学者の佐原真氏が土器に「式」を使うのは不合理と唱え、1990年代半ばから教科書でも「縄文土器」 に変わったそうです。どちらで習ったかで、その人が何歳以上か分かりそうですね。
(2021年06月21日)