「コミットメント」の意味が分かるかどうか伺いました。
目次
「説明欲しい」が最多
米国によるインド太平洋地域への「コミットメント」――意味は分かりますか? |
十分理解できる 9.8% |
何となく分かる。説明は不要 14.8% |
何となく分かるが説明が欲しい 45.9% |
分からない。日本語で言い換えてほしい 29.5% |
予想通り「何となく分かるが説明が欲しい」が最多で半数近くを占めました。「分からない」も約3割で「十分理解できる」は1割程度ですから、これはやはり放っておくと不親切になりそうです。
言い換え例は「関与」「確約」
2002年以降、国立国語研究所は分かりにくい外来語をどう言い換えるか提案しており、06年にまとめられた資料を見ることができます(「外来語」言い換え提案)。「コミットメント」を参照すると、まず気になる人々の理解度は4段階中最低の25%未満。今回のアンケートでも「十分理解できる」「何となく分かる。説明は不要」の合計が25%程度ですから、以前から変わらず理解されていない言葉と言えるでしょう。
ではどうするか。国語研は「関与」と「確約」の二つの言い換えを提示しました。アンケートの例文で当てはまるのは「関与」の方ですね。「米国によるコミットメント(関与)」と補えば意味を取れそうです。
もう一つの言い換え「確約」はどうでしょう。最近の毎日新聞記事では国際的な課税ルールの整備について、麻生太郎財務相の「今年半ばまでの合意のコミットメント(公約)を示せたことは大きな成果だ」という発言が見つかりました。これもカッコ書きで説明を付けたことで理解しやすくなっています。
というわけで、文脈を見ながら「関与」か「確約/公約」のどちらかを後ろにカッコ書きで付ければOK!――と言いたいところですが、これが満点の解決策であるかは疑問です。
「関与」では足りない場合も
国語研の資料の「意味説明」を見ると、もう少し詳しく「責任ある関与」「責任ある関与を明言した約束」と書かれています。アンケートの例文のような場面では、「コミットメント」は「アジア太平洋で何か問題が起きたら、大国である米国が責任を持って対処するぞ」と外交的に強調するための用語になっているわけです。ただの「関与」では「コミットメント」の強さを十分伝えきれません。
3月の日米外務・防衛担当閣僚による協議後の共同発表には「尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントについて議論した」(外務省仮訳)とあります……「コミットメント」はカタカナ語のままで言い換えてくれないのですね。ここでは国語研のいう「責任ある関与を明言した約束」に当たるでしょう。毎日新聞ではこの「コミットメント」に「決意」という説明を付けていましたが、この用語の強さが伝わる言い換えではないでしょうか。
やたらと「コミットメント」を使う政治家やお役所には、国民に理解される言葉を使おうとする意識が薄いと言わざるを得ません。しかし単純に「関与」「確約」と言い換えてしまうと意味するところが十分に伝わらないということも、「コミットメント」が乱発される背景としてありそうです。
使用の際には配慮が必要
新聞としては、地の文でわざわざ「コミットメント」と書くことは避けて、「責任を持って関与することを約束した」などと表現するのが良さそうです。誰かの発言を伝える場合でも、少なくとも「関与」「確約」などと説明を付けて、読者の理解の助けとする必要があるでしょう。さらには文脈に応じて「決意」のようにその意味内容をより的確に伝える言葉を選ぶことができればよりよいのではと考えます。
(2021年04月23日)
日本、米国、インド、オーストラリアによる枠組み「クアッド」が動き出しました。これに関して政治家・識者がたびたび発するのが、質問文の「コミットメント」。例えば加藤勝信官房長官は「(米国の)バイデン政権による『自由で開かれたインド太平洋』、日米豪印の枠組みへの強いコミットメントを示す」と述べました(2月19日毎日新聞)。
十数年校閲をやっていてもこの「コミットメント」、分かるような分からないような言葉のままです。広辞苑7版を見ても「①かかわりあい。関与②誓約。公約。言質」。うーん、官房長官の発言の意味としては、米国が「強く関与する」ということなのか、「はっきり公約した」ということか。
毎日新聞の記事では「関与」「約束」「確約」など、文脈により言葉を選んで「コミットメント」を説明しようと苦労している跡が見られますが、説明をつけていないものも多くあります。日本語での言い換えが難しいからなのか、もう読者になじんだ言葉だと判断しているのか。
アンケートでは「何となく分かる」という人が多いのではと思っています。もし大多数の人がきちんと理解しており、出題者が理解不足というだけであれば(ショックですが)今後悩むことはないのですが……。
(2021年04月05日)