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改めて気づかされた「生活態度」「幸福」
――気に入っている語釈などはありますか。
山本さん 吉村のおすすめは「生活態度」「幸福」など。
「何も考えないまま」っていうのもまた、ここでコケるんですけども(笑い)、ここまで書かれるとちょっと考えさせられてしまいますね。
吉村さん 「それ以上を望まない」。現状で満足しているから「幸福」という言葉を使えるんだ、ということですよね。ああそうか、言葉で説明するとこうなるのかって、改めて気づかされたりします。
反発を覚えたり、振り返って考えたり
――言葉で説明するのが難しい概念を説明していますね。
吉村さん 普段はこういった言葉をわざわざ辞書で引くことはあまりないと思いますが、引いてみると「この言葉にはこんな意味が本当は隠されていたんだ、なるほどね」と考えさせられることが多いです。語釈を読んで、時には反発を覚えたり、改めて自分にその言葉を投げかけてみたりする。そういう機会を与えてくれる辞書だと思います。
――語釈を読んで「これは違う」と思った人は、その人自身が〝考えている〟ことになりますよね。
吉村さん そうなんです。その言葉について、自分で考えているわけです。SNSでの言葉のやりとりによる行き違いだったり、ヘイトスピーチなど言葉が攻撃性を持ったり、近年はさまざまな問題がありますよね。辞書を引いて改めて言葉に注目し、自身を振り返って考えて、多様な人々とコミュニケーションをとっていく機会になればいいなと。そういう思いも込めています。
山本さん 「幸福」もね、「幸せであること」と言ってしまえば、間違いではありませんが、そこで終わってしまうと思うんです。「幸福」という言葉を使うときの、言葉が持っている背景や、人々が使うときの心のありよう、そういうところまで踏み込まないと、その言葉の本当の意味は描けないと思います。今流にいうと〝刺さらない〟というか。
「他人は同じ意味で使っていないかもしれない」
山本さん そうした点で新明国は「考える辞書」だと思います。語釈を読んで時に反発を覚える。自分なりにこうだと考える。自分はこう思うけれども、もしかしたら他人はこの言葉を自分と同じ意味で使っていないかもしれない、と思いをはせる。そうすると読みの深さも変わってくるでしょう。すべての国語辞典がこういうものでなくてもいいと思いますが、こういう辞書もあってもいい。ぜひ使ってみてほしいと思います。
吉村さん 特に(新型コロナの影響がある)この時期、対面コミュニケーションよりもメールやSNSなどのテキストでやりとりする機会が増えて、思わぬ誤解を招くことがあります。そんなつもりで言ったわけじゃないのに、って、相手からの返事を見てがくぜんとしたことが私もあります。自分ではわかっているつもりの言葉でも、辞書で引いてみると、新たな発見があるかもしれません。
山本さん 言葉の意味は、簡単に他の言葉に置き換えて表すことはできません。人によって解釈の違いがあり、幅もあります。それを意識せずに使うのは非常に怖いことでもあります。新明国を読むことで、そういうことをどこか意識してもらえるといいなと思います。
【まとめ・塩川まりこ】
〈新明解国語辞典8版インタビュー〉