ほぼ1年前に発刊した「毎日新聞校閲グループ・岩佐義樹」名義(現・校閲センター)の「春は曙光、夏は短夜――季節のうつろう言葉たち」が5月10日に電子出版されました。紙の本には申し訳ないことに一部間違いがあったので修正しています。
この本は、2017年まで毎日新聞本紙に連載していた「週刊漢字 読めますか?」と連動して「毎日ことば」でも発信していた漢字の読みクイズをもとに、大幅加筆したものです。毎日ことばでは今でもツイッターでクイズの正解率を含むまとめを折に触れて再掲載しています。
新聞連載としての性格上、時事用語や旬の固有名詞なども多かったのですが、それらは本にまとめる際に削除、季節関係の言葉に絞りました。歳時記ではなく校閲として出す以上、随所に間違えやすい漢字や気をつけるべき表現を盛り込んでいます。
例えば6月の言葉のところで「雨模様」というのは雨が降りそうな様子を指し、実際に雨が降っていることではないという趣旨を述べています。既に「誤用」が定着しつつありますが、校閲として繰り返し紹介することでその流れを少しでも押しとどめようとしています。
他サイトでもいくつか紹介していただいていますが、ヤフーニュースに配信されている「ライフハッカー[日本版]の書評家が選ぶ、2018年の名著10選+α」で9位に選ばれていました。
また、「山懐」の項について次の引用と感想を目にしました。「よくそこに注目していただきました」とありがたい気持ちでいっぱいです。
ーー“「ふところ」と「なつかしい」が同じ漢字で結ばれるというのは、なんとも素晴らしい日本語の感覚ではないでしょうか。” 懐かしさは、脳でなく胸の奥にあると思う私には、とても嬉しい言葉だ。
なお、ある日突然全く知らない北海道美深町の方が東京の毎日新聞本社に来訪してきました。何事かと思えば、コーヒーの焙煎(ばいせん)所を開くにあたって店名を何にしようかと考えていたところ、たまたま目にした「春は曙光、夏は短夜」の本で「煎り豆に花」という言葉を見つけ、そのまま店名にしたとのことです。お礼とともにそこのおいしいコーヒー豆をいただきました。
言葉を介して思いもかけぬ出会いが生まれるということに感動するとともに、言葉を扱う職業としての責任感に改めて粛然としました。
電子版でも何かのお役に立てれば幸いです。
【岩佐義樹】