「アベック」という言葉をどう使うか伺いました。
目次
「使う」人が7割占める
「アベック」という言葉。どう使いますか? |
「カップル」という意味で使う 39% |
2人がそろって何かをするという意味で使う 15.1% |
上のどちらの意味でも使う 16.4% |
使わない 29.5% |
「どちらも使う」を含めれば、「カップル」の意味で使うという人が過半数でした。「2人がそろって何かをする」意味で使う人は3割程度と予想より少なかったものの、死語扱いされているとは思えない数字です。
「アベック」だけだと否定的イメージ
家族とその友人(いずれもアラサー女性)にこの言葉をどう思うか聞いてみたところ、「なんか後ろ暗いニュアンス。『カップル』でいいんじゃない?」「前時代的な暗さがあるし、おしゃれじゃない」。2人とも意味は知っていましたがマイナスイメージで捉えていました。
「アベック」という語の変遷については米川明彦著「ことばが消えたワケ」(朝倉書店、2018年)に詳しく述べられています。同書ではこの語を「現在老人語と思われる例」に分類。大正時代に陸軍の将校間の俗語から出た語で、戦前は「モガ・モボが銀座を一緒に歩く姿を表したハイカラな語だった」そうです(この解説がもう死語のオンパレードですね!)。そして戦後特に流行したといい、次のように続けます。
洋画家で随筆家の木村荘八は「現代風俗帖」(1952年)の中で、皇居前広場が「アベック市場」と呼ばれ、「アムールに酔つてゐる人人」が集まっていると書いている。こんな風俗と「アベック旅館」の出現によって「アベック」は「しゃれた語」から「いやらしい語」へと堕落してしまった。
「アベック旅館」は今でいうところのラブホテル。2人のアラサーが感じていた後ろ暗いニュアンスは歴史的背景を持つものだったのです。「アベックっていう言葉、今は使えないんだっけ?」と聞いてきた記者も同様のイメージを抱いていたのでしょう。
時代に合わない面の一方、語感生かした使用も
アラサーの一人からはもう一つ、貴重な意見が聞けました。「『カップル』っていうと今は同性カップルも指すけど、『アベック』って男女のペアしか指せないんじゃない?」。確かに「アベック」が流行語だったころは性の多様性はほとんど認められておらず、男女間以外の恋愛について公然と口にするのは今よりも難しかったはず。その時代の言葉ですから「アベック」が男女ペア以外に使いづらいのも当然です。
しかしアンケートではそうした逆風をはね返す「アベック」使用率の高さ。まさか回答者の多くが戦前生まれ!?なんてことはないでしょうから、実は根強く使われる言葉であるようです。ツイッターで検索してみると、やはり「アベック優勝」などが多く見られますが、「アベックの多い所には行きたくない」「アベックがいちゃいちゃしてる」と「カップル」の意味での使い方も少なくありません。ただ、デートの相手がいない哀愁を込めてつぶやいたり、振る舞いが目に余る2人連れをやゆしたり、含むところのある使い方が多い気がします。それこそ、後ろ暗いところのない「カップル」という言葉では出せないニュアンスを狙ってあえて「アベック」とする人もいるのではないでしょうか。
前掲書では「『アベック』は野球の『アベックホームラン』に見られるように単独では使われなくなった。何年後かには消えていくだろう」と予想しています。しかし今回「アベック」がしぶとく生き延びる可能性も大いにあるのではと感じました。新聞で使うことにはためらう気持ちも強くなりましたが……。
(2018年01月08日)
クリスマスシーズンには街でカップルを見かけることも増えます。昔は「アベック」と言われていたものですが、取材記者から「今は『アベック』って言葉を記事では使えないんだっけ?」と聞かれたことがあります。
そのような決まりはありませんが、確かに最近はカップルを指して「アベック」と言うのを聞きません。ネット上では「昭和の言葉」「死語」といったカテゴリーで扱われていることが多く、三省堂国語辞典(7版)では「古風」という注釈がついています。新聞記事でも、かつては「アベック殺人事件」などと見出しになることもありましたが、近年は昔の事件に触れる文脈や連載小説で見られる程度です。
この言葉はフランス語の前置詞avecに由来します。「○○と一緒に」という意味で、英語のwithに当たります。日本国語大辞典(2版)によると、「日本で用いられる二人連れの意味は、大正末期に大学生に使われたのが始まりとされる。昭和初年ごろより流行語・モダン語として広まった」。原語の意味からはかなり離れた「和製仏語」だったのです。
今でも新聞のスポーツ記事では「主力2人がアベックホームラン」「日本、男女アベック優勝」のように、2人(2チーム)がそろって活躍したときの表現として度々登場します。辞書では「二人または二つのものが行動をともにすること」(大辞泉2版)と説明される用法です。こちらの方はまだ死なないと思いたいですが……。
(2018年12月13日)