「盆と正月が一緒に来た」――非常に多忙なことや喜ばしいことが重なることを、昔から俗にこんなふうに表現してきました。もちろん実際には半年ほど時間的に離れた行事ですから一緒に来ることはありません。それでもその二つが一緒に来るほどの、最大級の、という表現なのでしょう。盆と正月が昔ほど大イベントではなくなってきている感もありますが、私たち「校閲」の仕事から申しますと、まだまだ「季節の定番」なのです。
「正月」には、小正月、七日正月、旧正月……といろいろな「正月」のつく言葉がありますが、意味の取り違え、時期の勘違いといったドタバタになった記憶はありません。ところが、「お盆」の方は毎年夏が近づくにつれ内々の議論が始まってしまいます。「7月中旬のお盆」とあれば「私の故郷では8月に決まっています」と言い出す者が必ず出てきます。「それは月遅れのお盆」などと諭しても「いいえ、昔からずっと」などと譲りません。自分の経験の中の「お盆」こそが本物なのだというわけです。
「お盆」でさらに輪をかけてしまうのが「新盆(にいぼん)」と「旧盆」。「新盆」は人が亡くなって初めて巡ってきたお盆のこと。しんぼん、あらぼん、ういぼんとも呼ばれますが、亡くなった方の「初めて」のお盆。決して「新暦」7月の「新」ではないのです。
一方の「旧盆」。こちらは旧暦つまり陰暦の日付に従って行われるお盆です。新旧という対になった漢字が使われると、ついつい反対語のように思ってしまいがちですが、この新盆・旧盆の場合はそもそも性格が異なるわけです。
生まれも育ちも東京という私としては、8月に「お盆」がある方、古里のある方がうらやましい。ご先祖の供養の目的で集まる親類縁者はもちろん、幼なじみ・同窓生が帰省して「同窓会」が始まる。そんな古里がある方たちは、きっと「正月も帰ってくるよ」などと言い交わしているのだろうなあ。そんな「うらやましさ」が積もり積もって、気がつくと友人の実家。まさに「盆と正月が一緒に来た」ような宴席で「日本の正月」をたっぷり味わうことができました。
【岸田真人】