意外と言えば意外、さもありなんと言えばさもありなん。「還暦を迎えた」と言えるのはいつかという質問の回答は、考えさせる結果となりました。
目次
「正解」の「数え年61歳の元日」が最少
「還暦を迎えた」と言えるのは… |
満60歳の誕生日 48% |
数え年60歳の元日 32.4% |
数え年61歳の元日 19.6% |
辞書的な定義に基づくと「数え年61歳の元日」が正しいことになります。しかしそれを選んだ人は3択の中で最少の約2割にとどまりました。同じ数え年でも「60歳」の方が多く、それよりさらに多い半数近くが「満60歳の誕生日」でした。辞書と現代の実態とのずれが顕著に表れた例として特筆すべきではないでしょうか。
まずは広辞苑7版で確認しましょう。
かんれき【還暦】(六〇年で再び生まれた年の干支に還〈かえ〉るからいう)数え年六一歳の称。華甲〈かこう〉。本卦還〈ほんけがえり〉。
ついでに数え年はというと――。
生まれた年を一歳とし、以後正月になると一歳を加えて数える年齢。
東海道新幹線は60周年で還暦?
この説明に加えると、かつての日本ではゼロという概念が希薄だったことから、ゼロ歳という赤ちゃんは存在しませんでした。
例えば2024年の十干十二支(干支)は甲辰(こうしん=きのえたつ)。その前の甲辰は1964年。この年に生まれた子供は生まれた瞬間に数え年1歳で、翌年元日に2歳になります。例えば1964年10月生まれの人は2024年1月1日にまだ満59歳で数え年61歳になります。これが還暦を迎えるということです。
しかし「還暦を迎え」の実態はどうでしょう。例えば東海道新幹線は1964年10月1日に開業しました。今年の10月1日でちょうど60周年です。これをもって「還暦」を迎えると書くメディアが見られます。
映画監督・小津安二郎は1903年12月12日に生まれ、63年12月12日に亡くなりました。この没した日を「還暦を迎えた日」と書く記事は毎日新聞でもありました。
昨年12月、満60歳の誕生日を迎えられた皇后さまによる感想も「還暦という節目の誕生日を迎え」となっていました。
これらはすべて「間違い」と言い切れるでしょうか。
他の年齢異称は数え年か
ちなみに、広辞苑で他の主な年齢異称を調べました。
弱冠 男子の20歳の異称
而立 30歳の称
不惑 年齢40歳
知命 50歳の称
華甲 数え年61歳の称
古希 70歳の称
喜寿 77歳のこと。また、77歳の賀の祝い
傘寿 80歳のこと。また、80歳の賀の祝い
米寿 88歳のこと。また、88歳の賀の祝い
卒寿 90歳のこと。また、90歳の賀の祝い
「数え年」と明記しているのは「華甲」つまり「還暦」と同じく数え61歳だけですね。それ以外は満とも書いていないので、どちらとも解釈できます。華甲は「華」の字を分解すれば六つの「十」と「一」から成るのと、甲は干支の甲子から来たとされています(なんだか無理のある字解きのような気もしますが)。
おそらく「還暦」も「華甲」も、元の暦に戻ることがいわれなので、辞書の語釈としては数え年が大前提なのでしょう。その数え年を徹底させ、古希、喜寿、卒寿などの意味にも「数え年」と入れている明鏡国語辞典3版のような辞書もあります。
一方、三省堂現代新国語辞典7版の注釈では「その年の誕生日に、還暦の祝いをする」、新選国語辞典10版の注釈では「最近は満六十歳の誕生日に祝うことが多い」など、実態をある程度反映させる辞書も出ています。
数え年は過去の遺物かも
三省堂国語辞典8版にはもっと詳しい解説があります。
干支が一巡して、数え年で六十一歳〔満年齢では六十歳〕をむかえる年。「―をむかえる・―のお祝い〔現在、多く誕生日ごろにおこなう〕」 「還暦をむかえた大会」などと言う場合、しばしば六十回目〔第一回の五十九年後で、干支が一巡する前年〕のこともある。
これらからうかがえるのは、還暦はあくまでも元日から始まる「年」であり、誕生日はそれとは別、ただし還暦の年に満60歳の誕生日が含まれ、その日にお祝いをするという解釈です。
皇后さまの「還暦という節目の誕生日を迎え」という表現も、還暦の年の中で誕生日を迎えるという捉え方ができないわけではありません。
しかし、アンケートで数え年にしても60歳と答えた人が少なくなかったように、本来の意味はどんどん失われていっているのも事実かもしれません。日本人の数え年の年齢はもはや過去の遺物となり、還暦も60歳の誕生日とする解釈が一般的になりつつあることが、今回のアンケートから如実にうかがえました。
(2024年09月30日)
辞書ではおしなべて「還暦」を数え年61歳のこととしています。還暦とは暦が還(かえ)ると書くように、60年で甲子などの十干十二支(干支)が一巡し、生まれた年の干支に戻ることです。
だから本来は、新年を迎え新しい干支になった時に「還暦を迎えた」と言うのが正しいはず。しかし、数え年という数え方がほぼ途絶え、インターネットでは「満60歳の誕生日に還暦祝い」などの文言があふれています。
還暦を「数え年」とする辞書も、例えば喜寿(77歳)、米寿(80歳)、卒寿(90歳)などの説明で「数え年」を付けるかというと、そうでないものが多いようです。これらは満でよいということなのでしょうか。それなら還暦も満60歳の誕生日でよいような気がしますが、皆さんの認識はいかがでしょう。
(2024年09月16日)