自分で作ったものについて「お裾分け」すると言うことをどう感じるか伺いました。
目次
「問題なし」と「許容範囲」で8割超
作りすぎたおかずを近所に「お裾分け」という表現。どう感じますか? |
特に違和感はない 51.9% |
違和感はあるが、許容範囲 29.7% |
違和感があり、言い換えたい 18.4% |
半数が「特に違和感はない」との回答で、「違和感はあるが、許容範囲」を含めると8割の方が「許容できる」との結果でした。
毎日新聞は「頂き物」に限定するが…
毎日新聞の用語集では、お裾分けについて「『頂き物をさらに人に分け与えること』が本来の意味。単に『自分の物を人に分けてあげること』の意の使用は避ける。『庭の柿の木にたくさん実がなったので、近所にお裾分けした』→『近所に分けた・お分けした・差し上げた』」との説明を掲載しています。「お裾分け」の「人からもらったものをさらに別の人に分ける」という「本来の意味」を踏まえ、それにのっとった使い方をするように注意喚起をしているのです。
ただ、国語辞典で「お裾分け(裾分け)」を引くと、
もらった物や利益の一部分を分けて人に与えること。(大辞林4版)
よそからもらったものや利益などを、すこし分けてやること。(三省堂国語辞典7版)
もらいものの余分を分配すること。また、利益の一部を分配すること。(広辞苑7版)
もらいものや利益を、さらに他の者に分け与えること。(大辞泉2版)
などとあります。大辞林と三国の記述はそれぞれ「もらった『物や利益』の一部分」「よそからもらった『ものや利益』」と解釈できなくもないですが、広辞苑と大辞泉を見る限り、やはりこれらも「『もらったもの』や『利益』」と読むのが適当でしょう。
そして、大辞泉は「金儲(もう)けの――をした上に華美(はで)な贅沢(ぜいたく)の所為(まね)が出来るなら」(内田魯庵・社会百面相)という例文を紹介しており、「利益の分配」の用法もそれなりに昔から使われていたようです。単に自分の物をあげるときに使う言葉ではないのは明確ですが、「もらいもの」だけでなく「自分の物から生じた利益」であれば、他の人に「お裾分け」してもいいように読めます。
ニュアンスに注意を要する場合も
文字通り「お裾分け」は「裾を分ける」ところから生まれた言葉です。「漢字源改訂新版」で「裾」を引くと、「長い衣服の、下に垂れた部分。転じて、物の下端」とあり、「暮らしのことば 新語源辞典」の「お裾分け」の項には「『裾』とは衣服の下端の部分のこと。それが転じて主要な部分ではない末端の物という意味になり、品物を下位の者に分配することを『お裾分け』というようになった」との記載があります。今ではあまり意識されませんが、もともとは自分の得た褒美などを下位の者に恵むという、身分の上下を含んだ言葉であったようです。
一部の辞書や用語集の中には、「お裾分け」のもともとの上下関係を意識してか「目上の人に差し上げるときに使うのは避ける」などの説明がなされていることがあります。ですが、相手に対して恵んでやるという態度でものを渡すのではない限り、身分の差を含んだ原義が薄れた現代の用法として、「目上の人への善意の『お裾分け』」も認めていいのではないかと個人的には考えます。気になる方は「お分けする」などと言い換えるか、「お福分け」との表現を使うといいでしょう。
「幸せ」も「お裾分け」の対象に
また、派生した表現として「幸せのお裾分け」があります。人からもらった幸せを他の人に分けるというよりは、自分の幸せを他の人にも――との思いを込めて使われる表現です。このように、好意から自分の利益を他人に分けるという使い方はかなり広まってきています。それと同時に「幸せのお裾分け」のように定着が進むと、「本来はもらいものを指す言葉だから言い換えよう」とはますますしにくくなっているのが現状です。
(2020年03月10日)
「ちょっとおかずを作りすぎちゃったので、もしよければ食べてね」。最近はあまり聞かなくなったご近所の方とのこんなやり取りを、おかずの「お裾分け」と表現することがあります。
国語辞典を引くと、「お裾分け(裾分け)」は「もらいものの余分を分配すること」(広辞苑7版)との説明がされており、本来「人からもらったものをさらに別の人に分ける」という意味を持つ言葉です。それゆえ、このような使い方をした原稿に遭遇した場合は、「近所に差し上げる」「近所に分ける」などと言い換えることにしています。
これを踏まえると「おかず」だけでなく、「自宅の庭でとれた柿をお裾分け」のような使い方も、もらいものではないため「誤用」ということになります。ただ広辞苑には上記の説明に続けて「また、利益の一部を分配すること」との語釈もあります。とすれば「思ったよりもたくさんできてしまったおかず」「木になった柿の実」(=利益)の一部を分配、と考えられなくもないのでは……。さて、困りました。
(2020年02月20日)