先ごろ発表の国語世論調査の中で「もふもふ」が取り上げられ、定着していることがうかがえる結果でした。このオノマトペに注目したサンデー毎日連載コラム「校閲至極」から転載します。ところでパンダの毛やクッキーに「もふもふ」はありでしょうか。
17日に発表された文化庁の「国語に関する世論調査」の中で、「もふもふ」が取り上げられました。こういう結果です。
「動物などがふんわりと柔らかそう」といった意味で――
「もふもふしている」と言うことがある……52.6%
「もふもふしている」と言うことがない……46.4%
「もふもふ」をほかの人が使うのは気になる……17.0%
「もふもふ」をほかの人が使うのは気にならない……81.9%
目次
「もふもふ」と「ふわふわ」どう違う?
この語については若手の校閲記者が2020年8月にサンデー毎日連載「校閲至極」で取り上げました。
この時点ではまだ主な紙の辞書では1種類が載せているにすぎなかったとのことですが、その後、明鏡国語辞典3版、三省堂国語辞典8版、新選国語辞典10版などが採録しました。
しかし実はそれより前の20年2月に出た研究社「日本語口語表現辞典」2版で詳しく解説されていました。
動物やぬいぐるみの毛などが柔らかくボリュームがあり、触ったり、頬ずりしたりすると気持ちいい場合に使用される。2000年代の初め、漫画で使われ始めてから、おもにインターネット上や若い世代に広まり、動物番組のタイトルなどにも使われたことで認知度も上がった。「もふもふする」は「もふる」の形でも使われる。類似表現に「ふわふわ」があるが、「もふもふ」のほうがより毛が多く毛足が長い印象を与える。「モフモフ」と書くこともある。
ところで、これらの辞書の説明は動物などの毛を念頭に置いていると思われますが、食べ物の食感を表す場合もあるようです。それとも、食感はレアケースで、毛並みの触感以外は使わない人が多いのでしょうか。
以下、「校閲至極」20年8月23日号を転載します。サンデー毎日の見出しは「動物から食感まで 癒やしのもふもふ」でした。ちなみに300回が近づいている「校閲至極」について、なんと作家の五木寛之さんが「もの書きの間では人気の連載である」と9月13日の「日刊ゲンダイ」で言及してくださいました!
【以上、岩佐義樹】
パンダの毛は「もふもふ」でない?
不細工だけどかわいい「ブサかわ犬」として愛され、青森県に暮らしていた秋田犬「わさお」が6月に天国へ旅立ちました。その死を報じる毎日新聞の記事には「もふもふとした毛並みとつぶらな瞳が人々の心をつかみ……」という描写がありました。
この「もふもふ」というオノマトペ、辞書ではどう説明されているのか――。私が調べてみようと思い立ったのは2年ほど前、もふもふ姿が愛らしい2匹の動物(の話題)を立て続けに目にしたからです。
一匹は2018年平昌(ピョンチャン)冬季五輪のフィギュアスケート女子で金メダルを取り、同年5月に「ご褒美」としてロシアのアリーナ・ザギトワ選手に贈られた秋田犬「マサル」。時おり彼女のSNSに登場しては数万件の「いいね」を獲得しています。もう一匹は上野動物園のジャイアントパンダ「シャンシャン」。17年末から始まった一般公開の観覧抽選に外れ続け、私がようやく会えたのはそれから約半年後でした。
さて、当時、主な紙の辞書を引いても「もふもふ」を見つけることはできませんでした。一方、デジタル大辞泉には「動物の毛などが豊かで、やわらかいさわり心地であるさま」との語釈が。
もふもふに似たオノマトペを大辞林第三版で引いてみると▽もこもこ=毛が多くて、ふくらみのあるさま▽ふわふわ=やわらかくふくらんでいるさま▽ふかふか=やわらかくふくれているさま。デジタル大辞泉の語釈とこれらを比べ、もふもふにあってそれ以外にないのは「さわり心地」か。もっとも、パンダをもふもふと形容することに違和感こそないものの、実は剛毛らしいから「やわらかいさわり心地であるようなさま」とするのが正確かも――と推断したのでした。
食感から始まった毎日新聞の例
それから改元を経て昨年、大辞林が「令和の辞書」をうたって第四版に改訂されました。もふもふ、ありました。「(動物の毛や羽などが)やわらかくよい感触であるさま」。やはり感触が関与するオノマトペのようです。
毎日新聞の記事データベースで確認できる「もふもふ」の最古の例は06年。「ビスケット類の中で、手作り風のを日本ではクッキーと呼ぶ――ふうん、もふもふ」。筆者に聞けば「おいしくてほほ笑みながらほおばっている感じかなと思いました。もぐもぐ、うふふふ、みたいな」。なるほど、動物の姿ではなく食感を表す使い方はネットでも散見されます。
いずれにせよ思わず笑みがこぼれそうな「もふもふ」。令和の辞書にも採録されるその広まりは、現代人がオンラインでは味わえない手触りのある癒やしを求めている証左なのかしら。
【西本龍太朗=当時東京本社校閲、現学芸部】