「高校生って新しく覚えた難解な言葉を使いたがる」「高校時代、隠語辞典が面白くて先輩とゲラゲラ笑いながら読んだ」――。「三省堂現代新国語辞典」編集主幹の小野正弘先生は、辞典や言葉を楽しんだご自身の経験も元に「辞典で楽しんでもらいたい」と言います。
「三省堂現代新国語辞典」第7版発売を前にしたインタビュー全4回の2回目です。編集主幹の小野正弘先生は、辞典や言葉を楽しんだご自身の経験も元に「辞典で楽しんでもらいたい」と言います。
目次
修辞的=格好つけた言葉?
――第7版では「修辞的マーク」というものが加えられたそうですね。どういうものか、詳しく教えていただけますか?
木村晃治さん 評論文などに特有の、ちょっと悪く言うと「格好をつけた言葉遣い」ってありますよね。そういうものに「修辞的マーク」を付けています。
小野先生 たとえば評論文などで「装置」って使われますけど、単なるシステムなのに「こういう装置なのである」って書いていることがあるんですね。装置って普通機械とかのことを言いますけど、そうではなくてソフトの「システム」が「装置」と言われることがある。そういうことはきちんと説明しておかなければならないけれども、(修辞的マークを付けることで)この辞典の立場としては、それは修辞的な用法なんだということを示す。ふりがなをつけていいのであれば「修辞的な」の脇に「(格好をつけた)」とルビを付けたいですね(笑い)。
木村さん そういう言葉というのはまさに、高校の現代文で高校生が読解していかなければならないものです。「現代文キーワード」「評論文キーワード」といった学習参考書も何十冊も出ていますね。評論文の中での難しい言葉遣い・独特の意味というのが従来の国語辞典では必ずしも記述できていなかったので、三省堂現代新国語辞典はそういうものにも対応するようにしています。
今回巻頭のところに、「評論文キーワード一覧」というものを設けました。合計7ページの索引みたいなものになっていて。先頭が「アイデンティティ(ー)」ですけど、いかにもこう、日常的に使う言葉ではないけれども論説文的なもので頻出する言葉ですね。そういったものを並べています。その中に【修辞的用法】のコーナーもあります。ここに並んでいるものが、実際に本文の中で目立つように「修辞的」というマークをつけて独自の意味解説をしている言葉です。例えば「立ち現れる」なんていうのも、本当に登場頻度が高いんですよね。普通の国語辞典ですと「目の前に現れる」だけしか書いていなくて、「曲がり角で犬が立ち現れる」みたいな言い方は普通せず、(評論文では)特有の使い方があるんですよね。
高校生って、新しい言葉を知ると使いたがる
小野先生 こういう一覧があると、眺めて分からないなと思ったらその言葉を引いてもらうというようなこともできる。高校生って、私も経験あるんですけどこういう新しい言葉を知ると使いたがるんですよね。私の場合は「アンビバレント」。高校の時に国語の教科書に出てきて、それで教室で流行したんですね。わけ分からないんですけど「それアンビバレントだろ」みたいな感じで。遅れてきた中二病みたいな(笑い)。
――普通、辞書はこの言葉を引こうと思って調べるという使い方をしますが、こういう一覧があると眺めてみてこんな言葉があるんだなと興味を持ったりすることもできますね。
小野先生 そういうのって紙の辞典でしかできないですよね。
――今の高校生は電子辞書を多く使ったりもすると思うのですが、そういう紙の辞典のいいところは他にどういうところにあると思われますか?
小野先生 Aさん、Bさん、Cさんがそれぞれ、別々のものを開いて突き合わせるというようなこともできるというのはありますよね。紙の辞典で何ができるのかって、これからもっと考えなきゃいけないですね。さっきも授業で辞典を使うなどがやりにくくなっているという話が出ていましたけれど、そこのところをもっと突破していきたいな、と。あと紙の辞典は、こうやって(複数のページに)指を入れてこう簡単に見比べたりすることも一瞬でできますからね。そういうのも大きいですよね。
――校閲記者はまさに、日々そうやっていろいろ見比べたりしています。
「KP」も追加 「辞典で楽しんでもらいたい」
――今回、欧文略語集が大補強されたそうですね。
木村さん 欧文略語集は、巻末に新たに設けた第4版から飯間浩明先生にご担当いただいております。
小野先生 飯間先生は新しい言葉への関心がすごくおありなので、面白いところではKP(=乾杯。2019年JC・JK流行語大賞ランクイン)みたいな、硬いものだけでなくこういったようなものも入っている。これも紙の辞典ならでは、ではないでしょうか。見ていくと「なんだこれは」と生徒が面白がれると思うんですよね。(電子辞書などで)検索するだけでは、ある(その言葉が載っている)ということが分からなければ永遠に引かれませんからね。
木村さん よくある欧文略語集というのは、「豊富に載っています」というのをうたおうとすると国際機関名だらけになってしまうんですよね。新聞・雑誌などに頻繁に登場するものではないような特殊な国際機関名までも載せるということになりがちで。でも三省堂現代新国語辞典の欧文略語集の特徴としては、飯間先生は意外とそういう略語集類では取りこぼされていたようなものを拾われています。ただのおまけ・付録ではなくて、有用性のあるものになっていると思います。
小野先生 それこそ中二病じゃないですけど、生徒が見てにやっとしたり興奮したりしてもらえるようなものがあるのはいいですよね。
私が記憶に残っているのは、高校生の時に図書館で隠語辞典というものを見つけてですね、中に載っている言葉が多岐にわたっていて面白くて。ゲラゲラ笑って読んでいたら先輩に何読んでいるんだと言われて。見てくださいよって先輩にも見せて、2人でゲラゲラ笑いながら読んだ思い出がありますね。辞典がそういうのを載せてくれているっていうのもなんか面白いですよね。そうやって楽しんでもらいたいんです。辞典で楽しんでもらいたい。
木村さん ほかには一部、教科書から拾ったようなものもあります。たとえば「AIスピーカー」とか。あとは「BCジャケット」。これも多分どの辞書にも載っていないんですが、水産科の教科書に出てきます。ごく基本的な潜水用器具なのに意外と載っていなくて、今回追加しました。
また、欧文略語は、本文を見ればいいのか巻末を見ればいいのか行ったり来たりしなくていいように、巻末に一本化しました。たとえば今回新たに追加した「Z世代」は本文の「ぜ」ではなく欧文略語集の「Z」のところに入れています。