「立て付け」の比喩的な使い方について伺いました。
目次
「わかる」は6割、「使う」は3割
「立て付け」の悪い法律――この「立て付け」の使い方、どうですか? |
わかるし、使う 7.9% |
わかるが、使うときは「建て付け」とする 24.5% |
わかるが、使わない 30.9% |
わからない 36.7% |
「意味はわかる」とする人が6割以上を占めたものの、自分で使うという人は3割強にとどまりました。また、表記については「立て付け」を使う人が1割に満たないという結果になりました。
建具の具合から比喩的な意味も
改めて「立て付け」を辞書で引いてみます。
・戸・障子などの開閉のぐあい(明鏡国語辞典3版)
・(いい・悪いの観点から見た)戸・障子の開閉のぐあい(新明解国語辞典8版)
・建具と、かもい・敷居・柱などとの合いぐあい(岩波国語辞典8版)
・①戸・障子など建具の開閉の具合 ②つづけざまにすること。たてつづけ(広辞苑7版)
・戸・障子のあけたてのぐあい(三省堂国語辞典7版)※見出し語は「建て付け」
どの辞書も軒並み建具に関する意味だとしており、やはり「法律」にかかる語としてはそぐわないようにも思えます。
大辞泉2版は「立て付け」の見出し語で「続けざまに事を行うこと」、「建て付け」で「戸や障子などの建具の取り付け、またその開閉のぐあい」という意味を載せているのですが、年3回データを更新しているというデジタル大辞泉では「建て付け」に「②物事の仕組み。枠組み」という意味を採用。建具が壁にはまっている具合、というところから派生したと考えられ、「法律の建て付け」「組織の建て付け」という用例を挙げています。
近年の国会では用例多数
質問の「立て付けの悪い法律」の場合はこの意味に近いでしょう。建具からの連想なので、単に「枠組み」という意味で使うよりも、それがしっかりしているかどうかなどに触れる場合に使う言葉のようです。紙の辞書にはなく、更新頻度の高いデジタル版の辞書には載っていることから考えると、最近になって「枠組み」といった意味が浸透してきているともいえるでしょう。
とはいえ日常生活ではあまり使わないように思いますが、政治やビジネスの現場ではよく使われているようです。「国会会議録検索システム」で「立て付け」を検索してみると、弁護士など参考人の発言も含めて900回以上使われています。調べられる限りでは初めて出てきたのが2005年。参考人の弁護士が「法制度の立て付け」と述べていたり、当時の大臣が「法律の立て付け」と発言したりしており、15年以上前から主に法律や制度の枠組みといった意味合いで使われていることがうかがえます。
立て付け? 建て付け?
ここまで書いてきた「立て付け」という表記はアンケートを見る限りあまりなじみがないようですが、各辞書の見出し語を見てみると、
「立て付け」:新明解国語辞典 ※表記の注に「『建て付け』とも書く」と記載あり
「立て付け・建て付け」:明鏡国語辞典、岩波国語辞典、広辞苑
「建て付け」:三省堂国語辞典
となっています。毎日新聞では表記の取り決めをしていませんが、辞書を見る限り、どちらかの表記が誤りということはなさそうです。ただ、ネット上では「立て付けは誤用」とする記事も見受けられました。こうした情報や元の建築用語のイメージから「建て付け」を使う人が多いのかもしれません。
意味はわかるという人が半数以上を占め、辞書にも採用され始めていることを考えると、比喩的な「立て付け」も言い換えの必要性は低いのかなと感じました。ただ、広く一般に浸透しているとまでは言い切れず、文脈に応じて表現を考えなければならない場合もありそうです。今後の各辞書の動向にも注目したいです。
(2021年10月26日)
「立て付けの悪い法律」――以前この言い回しに出合ったとき、思わずペンを置いて考え込んでしまいました。「立て付け」とは、「戸・障子などの開閉のぐあい」(明鏡国語辞典)という意味。他の辞書も戸や障子などに関する意味だとしており、「法律」にかかる言葉として使用するのはいささか疑問にも思えます。▲毎日新聞の過去の記事を見ても本来の意味から離れた使用例は少ないのですが、一方でビジネス用語としては「枠組み」などといった意味で広く使われているようです。元々の建築用語から派生した使い方がどれくらい浸透しているのかうかがってみたいと思います。▲また、表記についても、「立て付け」「建て付け」の2種類が考えられます。みなさんはどちらの表記になじみがあるでしょうか。
(2021年10月07日)