目次
枝頭
しとう
(正解率 32%)枝の先端。中国の戴益(たい・えき)による詩「探春」では、春を探して歩き回ったが見つからず、自宅に帰って庭を見ると梅の花が枝先に開いていたという。「春は枝頭にあってすでに十分」という成句となった。桜の枝頭もすでに十分春を伝えている。
(2016年03月22日)
選択肢と回答割合
えがしら | 29% |
えだがしら | 39% |
しとう | 32% |
新草
にいくさ
(正解率 52%)「にいぐさ」とも。春の若草のこと。島崎藤村「若菜集」の「春の歌」の一節は「春はきぬ/春はきぬ/浅みどりなる新草(にいぐさ)よ/とほき野面(のもせ)を画(えが)けかし」。
(2016年03月23日)
選択肢と回答割合
あらくさ | 34% |
しんぐさ | 14% |
にいくさ | 52% |
榛の木
はんのき
(正解率 57%)落葉高木。村岡花子訳「赤毛のアン」の冒頭に「まわりには、榛の木が茂り、ずっと奥のほうのクスバート家の森から流れて来る小川がよこぎっていた」と、春の村の描写がある。花粉症の原因の一つなので、外出の際はご用心。
(2016年03月24日)
選択肢と回答割合
しんのき | 13% |
はんのき | 57% |
にれのき | 30% |
馬酔木
あしび
(正解率 73%)「あせび」ともいう。常緑低木。有毒で、馬が食べると苦しんで酔ったように見えることからの名という。春に小さなつぼ状の花が房になって咲く。水原秋桜子が題名を付けた「馬酔木」は現在も続く俳句月刊誌。
(2016年03月25日)
選択肢と回答割合
あららぎ | 16% |
あしび | 73% |
まよいぎ | 12% |
◇結果とテーマの解説
(2016年04月03日)
この週は「春の草木」でした。前の二つは春の草木をうたった詩から、後の二つは植物の名前からです。
「枝頭」の回答は見事に三分され、正解率が今回最も低くなりました。「春は枝頭に在って已(すで)に十分」という成句が「楽しく使える故事熟語」(文春文庫)で紹介されています。
「一日中、春を探したが、春は見つからなかった。(中略)家に戻って試しに庭の梅の梢を見たところ、春は枝先にあってもう十分であった」という詩である。(中略)「幸せの青い鳥」を彷彿(ほうふつ)とさせる詩で、幸せは遠くにあるのではなく、意外と身近に存在するのだと置き換えられる。
中国・宋の詩人が果たしてメーテルリンク的な幸福観に基づいて詩を書いたかどうか分かりません。単に「灯台下暗し」という詩なのかもしれません。いずれにせよ、春先にぴったりの詩句ですのでもっと知られてもよいでしょう。
「新草」もありふれた漢字ですが言葉としてはほとんど知られていないようです。出題時少しだけ引用した島崎藤村の詩集「若菜集」の「春の歌」をもう少し紹介しましょう。
春はきぬ
春はきぬ
浅みどりなる新草よ
とほき野面(のもせ)を画(えが)けかし
さきては紅き春花よ
樹々(きぎ)の梢を染めよかし
万葉集にもあります。
おもしろき野をばな焼きそ古草に新草交じり生ひは生ふるがに
これらの春を歌う美しい詩歌に使われた「新草」、いまは「若草」の方が好まれるためか使われませんが、死語にするにはもったいない言葉です。
「榛の木」は思ったより正解率が高くなりました。「榛」の音読みはシンで、群馬県榛東村(2014年7月28日出題)などに使われています。が、日本の植物名としては「はしばみ」または「はん」で、後者は「はり」の転じたものだそうです。「張る」からきたという語源説があるそうなので、もしかしたら「春」と同源かもしれません。
「馬酔木」は「読めんかったら奈良市民権6カ月停止や」というツイートをいただきました。出題者も奈良市を初めて訪れた時に覚えた思い出深い花です。「ささやきの小道」という、名前からして雰囲気の良い道などで見られます。また水原秋桜子の句
馬酔木より低き門なり浄瑠璃寺
でも知られる浄瑠璃寺(所在地は京都ですが奈良の観光圏内の寺として扱われることが多い)も風情があります。名の由来は、馬が葉を食べると足がまひするところから、アシシビ→アシビとなったとか。
この表記は中国の古典には見当たらないので、和製と考えられる。しかし現代中国では使用されている
加納喜光著「植物の漢字語源辞典」東京堂出版
漢字の輸出がこんなところにもあるとは。観光シーズンを迎えた奈良ですが、桜だけではなくかれんな花々にも目をとめ、それらの漢字から文化の重層的な薫りを感じていただけたらと思います。