「孫息子」という表現についてどう感じるか伺いました。
目次
孫息子とは「言わない」が6割占める
「性別が男である孫」のことを、「孫息子」と言いますか? |
言わない。孫は息子ではないので違和感が強い 61.4% |
違和感はあるが、他の言い方がないので許容範囲 32% |
言う。違和感はない 6.6% |
「孫息子とは言わない」と断じる回答が61%超。「許容範囲」とした回答も合わせると、9割以上の人が「違和感がある」と答えました。やはり見慣れないと感じる人が現状では多数のようです。一方で、代わりとなる「端的な一語」が見つからないという難しさがあります。
非対称の対義語 「息子」と「娘」
「息子」は「子」であり、「孫」は「子の子」です。それらを重ねた「孫息子」はおかしくないかと感じたことが、質問のきっかけでした。予想を上回って「言わない」を選んだ人が多く、出題者にとっては心強い結果となりました。
「娘」には「(親から見た)女の子供」という意味のほかに、血縁関係を限定しない「(若い)女」の意味もありますが、「息子」は「(親から見た)男の子供」だけを指し、血縁関係のない男の人については使いません。多くの辞書が「娘」の対義語を「息子」としていますが、二つは対義語でありながら、性別を軸とした左右対称の概念ではなく、「娘」の方が「息子」より広い意味を持っています。「孫娘」は成り立っても「孫息子」には違和感が生じるのは、この範囲の違いに原因がありそうです。
日本国語大辞典によると、「娘」は「〈生(む)す女〉の意」、同様に「息子」は「〈生す子〉の意」で、ここでは「女」と「子」が対置されています。「子」といえば主に男子のことでした。「孫」も同様に基本的には男子を指し、女子であることを特別に示す必要が生じた際に「孫かつ女」=「孫娘」が派生したと考えられます。
新聞での用例は主に投書欄
「子」や「孫」は単体で男を指すという暗黙の共通認識がうっすらあったのが、時代とともに性別を限定しないフラットな語としての側面が強くなり、改めて「男の」孫だけを表す語が必要とされているのかもしれません。
実際には、新聞で「孫息子」が使われる例は多くありません。通常のニュース記事では単に「孫」とされた上で氏名が載るなどし、文脈からも男性であることが自然と読み取れる書き方になるからです。頻出する語ではなく、見慣れないことから「違和感がある」という回答になった人も多いと思います。
毎日新聞の紙面で過去に「孫息子」が使われたケースは大半が投書欄です。これは字数制限があり、登場人物の名前が出てこない短い記事なので、限られた紙幅で情報量をそぎ落とさないために端的な一語が欲しくなるという事情があります。また投書欄は筆者の書き方をなるべく生かす形で原稿を扱うため、校閲側でも記者の書く記事ほどには手を入れないようにする傾向がある、というのも影響していると考えられます。
使い方には気をつけたい
アンケートで全体の3割の人が「他に言い方がないので許容範囲」と回答した結果からも、代替表現がないことの難しさを感じました。見出し語に採用している小型辞書があることや、青空文庫でヒットする古い使用例もあること、誤読をされる可能性は低いと考えられることなどから、校閲で積極的に赤を入れるべき“誤り”とは言えません。必要に応じて一定程度は受け入れられている表現と捉えつつ、違和感を持つ読者も多いというアンケート結果を踏まえて慎重に、今後も個別の用例に注目していきたいと考えます。
(2021年05月14日)
女の孫は「孫娘」だから、男なら「孫息子」……と、単純に置き換えてよいでしょうか。投書欄などで時々登場する孫息子という表現。頻繁に出てくるわけではないのですが、遭遇するたびにもやもやするので、今回伺ってみたいと考えました。
「娘」には「(親から見た)女の子供」という意味のほかに、血縁関係を限定しない「若い女」の意味もあるので、「孫かつ女」=「孫娘」が成り立ちます。一方で「息子」は、「(親から見た)男の子供」だけを指すため、「孫息子」は「孫かつ息子」ということになってしまい、矛盾した印象を与えないでしょうか。
しかし、ならば男の孫のことを何と言えばいいのか、代わりとなる語も思いつかないので困ります。ニュース記事であれば「孫の○○さん」のように名前が入るなどし、文脈からも自然と性別がわかるような書き方になることが多いですが、投書のような匿名の短い文章ではそううまくいきません。
「男の孫」を「孫息子」とする表現が、どの程度受け入れられているのかを知りたいです。違和感がない、自分でも使う、という読者が多数であるなら、出題者も今後は慣れていこうと思えるので……。
(2021年04月26日)