「たちならぶ」という言葉の表記について伺いました。
目次
「立ち並ぶ」が6割占める
汚染処理水のタンクが「たちならぶ」――どう書きますか? |
建ち並ぶ 27% |
立ち並ぶ 59.5% |
上のどちらでもよい 13.6% |
東京電力福島第1原発の敷地内にある、放射性物質による汚染を処理した水のタンク。無数のタンクが林立する様子を表す「たちならぶ」は、漢字書きなら「立ち並ぶ」とする人が6割弱、「建ち並ぶ」が4分の1強でした。「タンク」を建造物と考えるかどうかも回答に影響したようです。
新聞・通信社の大勢は「立ち並ぶ」
毎日新聞用語集は「たちならぶ」の項目を二つに分け、一般用語としては「立ち並ぶ」、家屋については「建ち並ぶ」と表記するよう案内しています。しかし、こうした使い分けは新聞・通信社でも例外的なようです。日本新聞協会の用語担当者の会合で「立つ」と「建つ」の書き分けについて検討した際の資料を見ると、「立ち並ぶ」と「建ち並ぶ」を書き分けているのは毎日新聞のみでした。他社は家屋なども「立ち並ぶ」で統一しています。
また「建つ」「立つ」の書き分けは、毎日を含む2社が家屋については「建つ」で統一している一方、他の5社は家屋でも「建つ」を使うのは新たに建築する(している)場合に限定しており、既に建築されたものが存在している場合は「立つ」として書き分けています。「(家屋が)たちならぶ」という場合には既に建築されたものが並んでいるわけですから、この書き分け方に従えば「立ち並ぶ」となるのが道理ということです。
「建ち並ぶ」を使いたくなるという見解も
円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)では、「垂直になる/垂直にする」という意味での「たつ」の書き分けについて「ほとんどの場合は《立》を用いる」「特に、『建設』する場合は、《建》を使う」としています。この使い分け自体は一般的な了解事項であると言えそうですが、円満字さんは以下のようにも記します。
悩ましいのは、「倉庫が立っている」「テレビ塔が立っている」「お墓が立ち並んでいる」など。“ある場所にきちんと存在している”という意味だから、《立》を書いてもおかしくはない。しかし、“造り上げられていること”を重視して、《建》を用いて「倉庫が建っている」「テレビ塔が建っている」「お墓が建ち並んでいる」とすることが多い。
建造物については、たとえ既に建設というプロセスが終わっているとしても「建つ」を使いたくなる場合があることを述べています。毎日新聞のように家屋などには一貫して「建つ」を使うという方針も、理由がないわけではないということです。
タンクには「立ち並ぶ」が使いやすそう
とはいえ今回の質問では、対象が水の「タンク」という、建造物か一種の機材かという受け止め方が分かれそうなものでした。校閲ツイッターの質問の引用ツイートでも「タンクが建つに違和感がある」という声をいただいたように、「立つ」の方が中立的で使いやすいと感じる人も多かったのではないかと思います。
毎日新聞の過去記事では、今回の質問のようなケースでは「立ち並ぶ」「建ち並ぶ」が同じくらいの割合で登場しているのですが、アンケートの結果も参考に、少なくとも「タンク」の場合には「立ち並ぶ」が使いやすいのではないかと提案してみようと思います。
(2021年05月04日)
物が真っすぐ縦になるといった意味で「たつ」と読む漢字には「立、建、起、樹」などがありますが、常用漢字表で訓読みが認められているのは「立」と「建」の二つだけです。毎日新聞用語集では「立」を「一般用語」とし、「建」は「主に建築・経済用語」としており「家が建つ」「ドル建て」のように使い分けます。
用語集はまた「たちならぶ」についても記載しており、「立ち並ぶ」「建ち並ぶ〔家屋〕」という使い分けを促しています。建物についてはいつも「建」を使うという方針です。
それでは、東京電力福島第1原発の敷地にある、冷却水や地下水を処理した水をためているタンクにはどちらがふさわしいでしょうか。規模の大きなものなので「建ち並ぶ」か。しかし家屋のような意味で建築物と言えるかどうか。記事でも「タンクを建設」というよりは「タンクを設置」とする場合が多く、判断に迷います。
実を言うと毎日新聞以外の新聞・通信社は、建築物についても「立ち並ぶ」を使うのが普通で、こうした迷いは生じないようです。出題者としても、こうした迷いが減るならば「立」に統一するのもよいかと感じるのですが、まずは皆さんの意見を伺ってみようと思います。いかがでしょうか。
(2021年04月15日)