家事、仕事、趣味の三つを「両立」させたい――これは「両立」と言いますか?
目次
「おかしい」が過半数、許容も4割超す
家事、仕事、趣味の三つを「両立」させたい――これは「両立」と言いますか? |
「両立」と言う 5.1% |
違和感はあるが許容できる 42.6% |
おかしい。別の言葉を使う 52.2% |
三つのものについて「両立」と言う人はわずかでしたが、「許容できる」人が4割を占め、ある程度受け入れられそうだという感想を持ちました。もっとも「おかしい」とする人が過半数を占めており、進んで使いたい表現とは言い難いようです。
三つのものには「鼎立」? 「並立」?
改めて辞書を見ると「両立」の説明は「両方とも支障なく成り立つこと」(大辞林4版)のようなものが一般的。「両方」といったら通常、三つ以上のものを指すことはありませんから、「三つを両立」とするのはやはりおかしい。ただし、おかしいとはいっても言い換え方を考えるとなかなか難しいようです。
この件についての毎日新聞への問い合わせでは「三つなら鼎立(ていりつ)かあるいは並立ではないか」という意見をいただきました。ただし「鼎立」は「(鼎〈かなえ〉の足のように)三者が互いに対立していること」(同)で、「両立」の意味とは差があります。「鼎談」には対立する意味合いはないのだから「鼎立」でもよいのではないか――という意見も目にしましたが、「対談―対立」の関係を考えれば「鼎立」は対立的な意味を持つのが自然かもしれません。
「並立」はどうでしょう。「二つ以上のものが対等に並ぶこと。また、並んで存在すること」(同)とありますから、三つ以上の物に使っても支障ありません。しかし、両立の説明にある「成り立つこと」という意味を含むかどうか、辞書の説明からは読み取れません。毎日新聞の過去記事を見ると「二つのリーグが国内に並立する状態を問題視」のような例を見かけます。この「並立」は2者のケースですが、銘々勝手に存在しているという意味合いが強く、「両立」に置き換えることはできません。「両立=並立」とは言えない場合が多そうで、すんなり言い換えられるというわけではないようです。
文章ごと言い換えるのがベター
校閲センターのツイッターへのコメントでは「全部成し遂げたい」などとするのがよいのではないか、という意見もいただきました。確かに、単語の置き換えで済ませようとするよりは、言い回し全体を変えることを考えた方が良い結果になるのではないかと思います。
回答から見られる解説では、環境相に就任した際の小泉進次郎氏の言葉を引きましたが、最近もこんな文を見かけました。「早朝から未明まで劇団と学業とアルバイトを両立させる生活を1年以上続けましたが……」。これも「劇団」「学業」「アルバイト」の三つを「両立」という言葉で受けたものです。三つ以上の場合であっても、他に言葉がないので「両立」でも仕方ない、という理解がある程度広がっているとも考えられます。
小泉氏のケースを直すならば「この三つを両立させ……」という部分をカギかっこから出してしまい「『公務最優先、危機管理は万全、妻の不安払拭(ふっしょく)』の三つを挙げ、これらを同時に実践して国民の理解を得られる形を考えたいと語った」などとするのが穏当だったでしょうか。
率直に言って、「三つを両立」は自ら進んで使いたい表現ではありませんが、言い換えが難しいものと感じます。使われるのが目や耳に触れることがあったとしても、とがめ立てせず許容するというのも見識ではないかと思います。もっとも校閲記者としては、少なくとも新聞記者が地の文で使うことは防がなければならない表現であると考えますが……。
(2019年10月08日)
きっかけは毎日新聞に載った小泉進次郎環境相の言葉です。「公務最優先、危機管理は万全、妻の不安払拭(ふっしょく)。この三つを両立させ……」というもので、読者から早速の反応がありました。「両立は二つ、三つなら鼎立(ていりつ)か、あるいは並立ではないでしょうか」と。
確かにパッと見て「三つを両立」させるというのは違和感があります。国語辞典を見ても「両立」の項目には「二つの物事が支障なく成り立つこと」(明鏡国語辞典2版)、「両方とも成り立つこと。二つともならび立つこと」(岩波国語辞典7新版)、「相対する二つの事のどちらも成り立つ(存在し得る)こと」(新明解国語辞典7版)など、「二つ」という点をはっきりさせているものが目立ちます。
もっとも、口頭では三つ以上のことについてでも言ってしまいそうだなあ、とは思います。また校閲としても、発言として出たものをわざわざ直すほどのことかと迷うところです。直すとしても「鼎立」は対立の意味を帯びますし、「並立」でもニュアンスがずれる感じはします。あえて直すならば、上記の「この三つ」以下は地の文に落とし込んで、まるで別の形にすることになりそうです。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2019年09月19日)