校閲として事実関係をいかに調べるかはもちろん重要だが、それ以前に「読んだら発見できる間違い」も実は相当数ある。
記事の別の箇所に「答えが書かれている」「明らかにヒントが出ている」という類いや「常識的にあり得ない」「頭の中で思い浮かべてみれば」といったものだ。
今回は、それらの典型例と確実に減らすことができる効果的な対処法をいくつか挙げてみた。
目次
「突然の改名」を一括チェック
栗林社長が正しいのに後段で栗原社長と誤った(以下同様に後者が間違い)。斎藤選手が斉藤選手、崩田さんが崩山さん、津守廃寺が津村廃寺、玉野商業高が玉島商業高など人名、地名、組織・団体名問わず、文中でそごが発生している。
チェックの最後には、文章の流れにとらわれず固有名詞だけをピックアップして、それぞれ整合性が取れているか確認する。
数字以上に「単位」にやられる
固有名詞と並んで数字は極めて重要であるため、筆者は当然、手元のメモや資料などと慎重に突き合わせている。しかし、数字そのものが正しいと分かると安心してしまうのか、後に続く単位などがおかしくなっていることに気付かないケースが意外と多い。
「関西のガス顧客の家庭が約700世帯」(正しくは「約700万世帯」、以下同)「クマゼミの体長が60~65センチ」(ミリ)、「ある農家のイチゴの作付面積が42ヘクタール」(アール)、「2012月2月」(2012年)など。最後の単位の確認まで気が抜けない。
常識としてあり得るのか、想像力を
上の項とも関連するが、数字が絡むものの間違いには少し考えれば常識的におかしいのでは?とピンとくるケースもある。例えば「ケヤキの直径が3.8メートル」とあるのは「幹回り3.8メートル」、「ある菜園のトマトの年間生産量が45万トン」は「約1000トン」のそれぞれ間違いという事例があった。
「そんな巨木が……」「1日あたり1200トン以上もトマトを作っているのか!?」との驚きをもって原稿に接していれば訂正を出さずに済んだであろう。
変換ミスを見破るため、「訓読み」の習慣を
見出しで「幻聴で心身耗弱」のミスを出してしまった。校閲としては恥ずかしい見逃しだ。
「間違えやすい言葉は普段から、あえて本来と異なる読み方で覚えておくこと」と指示しており、この場合も「しんかみこうじゃく」と覚えていれば、だまされることなく「心神耗弱」と直せたはず。
別の日には、記事中の「離党への不法上陸」で訂正となった。当然、即座に発見しないと困る箇所だが、漫然と読んでいると同音語の落とし穴にはまる。
そこで2回目に改めて読む際は、紛れやすい音読みを意識的に避け、訓読みに直して「離れた党へ法律に外れて陸に上がる」などと読み下せば、「あれ? この『党』とは何だ?」と、そのおかしさに気付き「離島」と見破れただろう。この手法は見出しの一字一句点検では極めて有効なので試していただきたい。
着実に突き合わせる
本文と見出し・写真説明の突き合わせは「一丁目一番地」であり、何を今更という話だ。しかし、「同じ文字・言葉がきちんと入っているか双方を比較対照する」「内容が一致しているかどうか見る」という一見単純に思える作業でも、完璧にやり遂げるのは難しい。
本文が正しく書かれているのに、見出し・写真説明で間違った主な例としては、以下のようなものがあった。
・何となく似ている?
「×一部は否認→○一部は黙秘」
「×露副大統領→○露副首相」
・常に日付を見ながら作業を
「×きょうから上映→○あすから上映」
・現職かそうでないか
「×市職員を再逮捕→○元市職員を再逮捕」
・著名人でも
「×横綱・白鳳→○横綱・白鵬」
「×藤原頼道→○藤原頼通」
・読者本人が自ら申告
「×書道展で銅賞→○書道展で銀賞」
・オーソドックスな変換ミス
「×オランダの前戦警戒→○前線警戒」
「×旧計画との違いを協調→○違いを強調」
・変換ミスの変形版
「×中国経済に不安再熱→○不安再燃」
「×市長選に出場表明→○出馬表明」
・訓読みも侮れず
「×絶えかねて蜂起→○耐えかねて」
「×降り込め詐欺被害金→○振り込め詐欺」
後編では、校閲の立場から気付いた、筆者・出稿部による人名の入力ミスを防ぐポイントを挙げてみたい。
【宇治敏行】