記者時代の記憶をたどると、当時は原稿の細部にはあまり気を使っていませんでした。原稿では大小を問わず間違い・勘違いがありましたし、今思い出しても、なんであんな間違いをしたのだろうというものもあります。
2009年6月、前年に小樽支局に赴任し、1人での地方駐在にも慣れはじめたころ、管内の町でスイカの収穫を取材し、原稿と写真を送り、翌日の地方版に掲載されました。すると翌朝、札幌の報道部に読者から「スイカの収穫量がおかしい」という電話がきたそうです。会社から連絡を受けて慌てて朝刊を開くと、そこには「約4850万㌧の出荷」との文字が。取材のノートとつき合わせると自分の筆跡でしっかり「約4850㌧出荷」と書かれていました。
農林水産省の作況調査によると、当時、09年産コメの収穫量(水陸稲合計)が約847万㌧。道産スイカの5分の1以下。そんなはずはありません。
翌日おわびが出ました。同僚が失笑まじりに慰めてくれました。
いまだにどこから「万」が出てきたのか自分でも分かりません。その後は数字関係ではできる限り資料や取材メモとつき合わせるようになり、ミスは多少なりとも減少しました。
小樽には3年半勤務しました。小樽やニセコなど管内の町の原稿もそれなりにたくさん書きました。
その小樽の「樽」には漢字が2種類あります。右上が「八」の字の標準字体=右=と、「ソ」の異体字(俗字)=左=です。新聞は原則として標準字体を使うと決まっています。
と、いうことを知ったのは割と最近です。
異動が決まり小樽生活もわずかとなった冬のある日、原稿を送った私にデスクから電話がありました。「そうそう、前から言おうと思ってたけど小樽の『樽』がいつも『ソ』の『樽』になってるから気をつけてね」
「もっと早く言ってくださいよ」の言葉をのみ込んで電話を切りました。
【坂井友子】