慣用句でも使われる「あげく」の書き方を伺いました。
目次
3分の2は「挙げ句」を選ぶ
「あげく(の果て)」をどう書きますか? |
上げ句 8.1% |
挙げ句 65.2% |
揚げ句 12% |
漢字はなじまないので「あげく」 14.7% |
「挙げ句」を選んだ方が最も多く、3分の2近くを占めました。次いで多かったのが平仮名の「あげく」で、毎日新聞でも採用している「揚げ句」を使う人は12%にとどまりました。
新聞協会は「揚げ句」としてきたが…
これを質問してみたいと思ったきっかけは、日本新聞協会の用字用語に関する議論のなかで、「長年にわたって『揚げ句』と書くのを標準としてきたが、一般的には『挙げ句』が主流となっている」との意見が出たことです。報道各社の文字遣いのベースとなる協会の用語集が改訂されるのに際して、規定を変える方向で検討しています。
出題者はこれを聞いたとき、すでに「揚げ句」になじんでいてピンとこず、さりとて辞書などを引き比べても何が「正しい」と言えるのかつかめないので、皆さんに尋ねてみようと思った次第です。
専門書でも揺れる表記
手元の国語辞典の多くが「挙」と「揚」を併記しています。元の意味は連歌・俳諧で最後の七七の句を指し(発句=ほっく=の対語)、新潮国語辞典によれば「古く俳諧などでは『揚句』と書かれたことが多い」そうです。
ただ、明治期の国語辞典「言海」など古い資料が「挙句」としていたり、「曽根崎心中」のような江戸時代の作品の用例を「上げ句」として載せていたり(「大日本国語辞典」冨山房、1952年)という具合で、どうも決め手に欠けます。また「連歌の世界」(吉川弘文館)も索引で「挙句(揚句)」としており、連歌を専門的に扱う本でさえ「これが正しい」とは決めていないことが分かりました。
1980年代に刊行された広辞林6版では、連歌・俳諧用語として「挙げ句」「揚げ句」を併記したうえで、「結果、とどのつまり」の意に用いるときは「かな書きにすることが多いもの」を示す印を付していました。
新聞の表記は当用漢字表に影響されたか
新聞表記として「揚」が選ばれた背景には、「当用漢字音訓表」(1948年内閣告示)で、「揚」は「ヨウ・あげる」の読みが掲げられたのに対し、「挙」は「キョ」としか書かれず訓読みが示されていなかったことがあるとみられます。しかし当然、現在の表記の根拠とするには話が古すぎます。はっきりと「正しい表記」が決められない以上、多くの人が違和感なく使える表記が選ばれていくのは自然なことと言えるでしょう。
(2020年10月09日)
どれを選んでも、間違いとは言えません。物事の終わり、結果を表す「あげく」。多くの国語辞典は「挙」と「揚」を併記しています。元の意味は「連歌の最終の句」(発句の対語)だそうですが、その連歌を専門に扱った本にも「挙・揚」の併記が見られます。また江戸時代の用例には「上」もありましたし、少し古い辞書の中には、元の意味から派生して「終わり」を表す場合はひらがな書きが普通だとするものもあります。日本新聞協会の用語集や、これを下敷きにした報道各社のハンドブックのほとんどは「揚げ句」に統一してきました。しかし最近、一般的に「挙げ句」と書かれる傾向が強まっているとの意見が新聞協会の議論で出され、協会としての標準的な表記を「揚げ句」から「挙げ句」に変更すべきかどうかの検討に入っています。出題者の体感としてはどちらが優勢とも言えないのではないかと思っていますが、果たして世の中の傾向は一方に寄っているのでしょうか。
(2020年09月21日)