路線バスを運転する人をどう呼ぶか伺いました。
目次
「運転手」がやや優勢だが「運転士」も一般的
職業として路線バスを運転する人のことを、どう呼びますか? |
運転士 36.2% |
運転手 46.2% |
上二つのいずれも使う 16.4% |
運転者 1.2% |
「いずれも使う」も含めると「運転手」と呼ぶ人が6割を超えてやや優勢でしたが、「運転士」を使う人も5割超。校閲の作業で「バスの運転士」とある原稿を「運転手」とする直しを見ることもあるのですが、どちらの呼び方も一般的なものと言ってよさそうです。一部の辞書で「正式」の呼び方とされる「運転者」を選んだ人はわずかでした。
古い呼び方は「運転手」
「運転士」と「運転手」という呼び方では「運転手」の方が一般的には古いものと考えられます。例えば文部省唱歌「電車ごっこ」(井上赳作詞、1932年)では「運転手は君だ、車掌は僕だ」としています。日本国語大辞典2版でも、公共交通機関の運転者としての用例は「運転士」より「運転手」の方がより古いものが出ています。
「運転士」は古くは船舶に使われる言葉だったようです。古い辞書で当該の項目を引くと「遠洋航海船に乗り組み、船長の命を受けて、船舶の運航を分掌する船舶の職員」(富山房「修訂大日本国語辞典」1941年)のような具合。用法を時系列順に載せる広辞苑が最初に挙げているのも「船舶の運転をつかさどる海員」です。したがって、バスを運転する人の呼び方も「運転手」が古く、「運転士」は新しいというのは間違いありません。
「――士」は職業的な面が強調される
それではなぜ、バスなどにおいても「運転士」という呼び方がされるようになったのか。推測の域を出ませんが、自動車の普及に伴って、誰もが運転をするようになったことが一因ではないかと考えます。「――手」という言葉は「あるしごとを持つ者。ひと」(日本国語大辞典2版)と説明され「騎手」「助手」「投手」のような例が挙げられますが、これらには必ずしも職業と見なされないものも含まれます。「運転手」は「運転するしごとを持つ者」と同時に、職業的でなくとも「運転する人」を指す場合も出てきます。
一方「――士」は「特別の資格、職業の人」(同)と説明され、「博士」「栄養士」「弁護士」などが例示されています。こちらは「――手」の場合とは異なり、資格、職業であることが分かりやすい。「運転手」が職業的でない運転者を指す場合も出てきたことに伴い、職業的な運転者を分かりやすく区別するために「運転士」の呼称が用いられるようになったのではないでしょうか。
法令上の呼称「運転者」は選ばれず
道路運送法ではバスを運転する人を「運転者」としています。新選国語辞典(9版)が「運転」の項目中、運転手について「法令では『運転者』という」とし、また明鏡国語辞典(2版)が「正式には(中略)バスでは『運転者』という」とするのもそのためでしょう。もっとも、回答で「運転者」を選んだ人はわずかでした。ちなみに電車の場合は、鉄道事業法は「運転士」と呼んでいます。
今回のアンケートの結果から見ても、また使用実態を見ても、路線バスを運転する人について「運転手」「運転士」のどちらかにすべきだという事情はなさそうです。「バスの運転士」を「運転手」とする直しを見たことが今回の質問のきっかけだったのですが、同じ記事中での表記の不ぞろいを防ぐという場合以外は、特に直す必要はないと考えます。
(2020年09月22日)
バスを運転する人をどう呼ぶか。「バスなら運転手、電車なら運転士」という人が多いのではないかと推測しますが、バス会社では自社の乗員を募集する時などに「運転士」を使うところが多いと感じています。
国語辞典を引いてみると「運転士」は「電車・自動車を運転する業務に従事する人」、「運転手」は「電車・自動車などの運転をする人」(いずれも大辞林4版)。ともに電車でもバスでもOKとみえますが、業務として運転する人を「運転士」と言い、必ずしも業務でなくともよいのが「運転手」となりそうです。もっとも、業務以外で電車を運転する人はあまりいないとは思いますが。
要するに路線バスを運転する人は「運転手」「運転士」のどちらでも問題なく、受け手の違和感の小さい方を使えばよいか、というところで落ち着くかと思ったのですが――明鏡国語辞典2版の「運転手」の項目は、以下のように注記します。「正式には、電車・タクシーでは『運転士』、バスでは『運転者』という」。運転者! 第3の呼称が出てきました。「正式には」というのは法令上の名称ということでしょうか。これで呼ぶ人はあまりいないとは思いますが、一応選択肢に加えてみました。
(2020年09月03日)