「後追い」を意味する漢語の表現について伺いました。
目次
「追随」が「追従」の2倍占める
新商品を出した企業を他社がまねて「後追い」。カギの中を言い換えるなら…… |
追従 28.2% |
追随 57.8% |
どちらも使う 4.5% |
どちらも使わない 9.6% |
似たような意味を含む「追従」と「追随」でどちらがよいかという質問でしたが、「追随」を選んだ人が「追従」の約2倍で、6割近くを占めました。
言いなりの「追従」、まねる「追随」
「A社の発売した商品がヒットしたことから、同業他社が追従した」といった書き方を見かけることがあります。要するにヒット商品をまねて後追いする、という意味なのですが、それならば「追従」よりは「追随」とすべきではないかという疑念がくすぶっていました。
岩波国語辞典8版は「追従」を「ついて行くこと。また、他人などの言う事なす事に(そのまま)従うこと」と、また「追随」を「①つき従ってそれをまねること。②前を行くものに従って後を追うこと」と説明しています。いずれも「ついて行く」というのを意味の中心としつつも、「追従」には「言いなり」というニュアンスがあり、「追随」には「まねをする」というニュアンスがあるようです。
他の国語辞典を見ても、こうしたニュアンスを明示する辞書が少なくありません。下に幾つかの例を挙げますが、後発組が先行者をまねて追いかける場合には「追随」がふさわしいと言えそうです。
追従
人の言った(した)事にそのまま従うこと。(新明解国語辞典7版)
人のあとにつき従うこと。また、人の言動にそのまま従うこと。追随。(明鏡国語辞典2版)
あとにつき従うこと。また、人の意見に従うこと。追随。(大辞泉2版)追随
他人の言動を無批判にまねすること。(新明解)
あとにつき従うこと。また、まねをすること。(明鏡)
あとにつき従うこと。人の業績などをまねて、それに追いつこうとすること。(大辞泉)
指示通りの「従」、主体性のない「随」
本欄ではおなじみの円満字二郎さん「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)では、「したがう」と訓読みする字として「従」と「随」を挙げています(ほかに「順」「遵」もありますが、ここでは省略)。「従」については「“人の後ろを人がついていく”ことが、本来の意味」としつつ「転じて、『従属』『服従』のように、“指示通りに行動する”という意味にもなる」と言います。「言いなり」と取るのは意地が悪いかもしれませんが、上位のものに逆らわない、という気分を感じます。
一方の「随」は「随時」「随筆」といった言葉に「時まかせ」「筆まかせ」という意味合いがあることから、「“何かに任せる”というニュアンスが強い」と言い、「“主体性のなさ”や“抵抗のなさ”といった消極的なイメージを強調する事ができる」とも。「追随」という言葉の持つ「まねをする」というニュアンスも“主体性のなさ”から説明することができそうです。
まねる場合は「追随」がおすすめ
アンケートの結果は「追随」を選んだ人が多く、これまで記したようなニュアンスを感じている人が多数であることを示唆しています。もちろん「追従」も「ついて行く」という本義からすれば間違いとは言えないので、「後追い」を意味する場合であれば必ずしも使用が不適切というわけではありません。ただし、この場では「追随」をよりおすすめしたいと考えます。
(2020年07月07日)
いずれも「後を追う」という意味で使われる「追従」と「追随」。しかし、出題者は「追従」という言葉にやや使いにくさを感じています。
毎日新聞用語集は用字用語の欄に「追従」を二つ載せています。一つは「ついじゅう」という読みで「そのまま従う」、もう一つは「ついしょう」と読み「へつらう」との説明を付しています。
「後追い」の意味を持つのは「ついじゅう」ですが、「そのまま従う」という説明はニュアンスがあります。例えば「外交で米国に追従するだけではいけない」のような形でよく現れ、「人の言った(した)事にそのまま従うこと」(新明解国語辞典7版)のように説明されます。他の新聞社の用語集では「上司の意見に追従する」のような例を載せるものも。
一方で、単に先行者の後をとにかく追うというのであれば「他人の言動を無批判にまねすること」(同)ともいわれる「追随」がよさそうに思えますが、「追随」の説明で「追従」と記す辞書もあり、同じといえば同じなのかもしれません。皆さんはどう感じるでしょう。
(2020年06月18日)