スライドなどを「とうえい」するという言葉の表記について伺いました。
目次
6割近くが「投影」を選ぶ
プラネタリウムやスライドを壁面などに「とうえい」――どう書きますか? |
投影 58.9% |
投映 32.6% |
上のどちらでもよい 8.5% |
「投影」が6割近い支持を得たのに対し、「投映」を選んだ人は3割強という結果でした。使われ始めた時期の早い「投影」の方が、今も社会に浸透していることがうかがえます。
使い分ける新聞社は少数派
このテーマは過去に複数回、日本新聞協会の用語担当による会議で話題になりました。ある新聞社では2011年版の用語集から、投映を[映像などを映し出す]、投影を[物の影を平面に映す、影響、反映]と用語集に盛り込んで使い分けを始めました。しかし追随する動きはあまりみられず、毎日新聞を含め、投映はまだ定着の途上という捉え方が大勢を占めています。
投映が投影に比べて新しいというのは、辞書の改訂状況からうかがい知ることができます。例えば日本国語大辞典。1970年代に刊行された初版は投影のみを扱い、2000年代の2版で新たに「スライドなどを映し出すこと」として投映の項目が立ちました。広辞苑も、18年の7版で新たに投映を「映像をスクリーンなどに映し出すこと」として見出し語にしています。
「影」は姿や光も表す
岩波国語辞典は見出し語には立てていませんが、7版新版(11年)では「投影」の項に「スライドなどで映し出す場合『投映』と書くこともある」とあり、これは6版にはなかった説明です。
その岩波国語辞典の投影の語釈に注目しましょう。「①物の姿(=影)を何かの面にうつすこと」。もともと「影」の字は光を遮ってできる黒い部分の他に、姿や光という意味を持っています。「ひかげ」を「日陰」と書けば日の当たらない所を表すのに対し、「日影」と書けば日光を指すのが分かりやすい例です。
したがって映像をスクリーンに映し出すことを投影と書いても不都合はありません。実際、スライド作成ソフト「パワーポイント」を扱うマイクロソフトのウェブサイト内の表記や、プラネタリウム施設が用いる文字遣いをみても投影が多く使われています。
「投映」の古い用例もあるが…
一方、出題者には意外に感じられたのですが、さほど新しいといえない資料にも、少ないながら「投映」が登場していました。例えば1960年代に出版された「原色現代科学大事典」(学研)のプラネタリウムの項目。大多数の百科事典が投影と書いているのとは対照的です。
この他、70、80年代に刊行された辞書にもちらほら投映と投影を併記したものがありました。映すものだから映の字を使って悪いということはありません。“比較的新しい”とはいえ、少なくとも半世紀の歴史があることがわかります。ただし、これは裏を返せば、長らく少数派にとどまっているということでもあり、あえて投影と使い分けて「投映」を選ぶ必要性が薄かったということかもしれません。
今後、使い分けの意識が強まって「投影」と「投映」それぞれの持つ意味合いがはっきり分かれてくる可能性は否定できません。しかしそれまでの間は、スクリーンに「投影」と書いて問題はないと考えます。
(2020年06月19日)
伝統的な漢字表記「投影」に比べると、「投映」は新しくみられるようになってきた書き方です。スクリーンに映し出すことから違和感のない文字遣いとして使われるようになったのだろうと推察されます。
ただ、「影」には姿や光という意味もあり、昔からある表記でも不都合はありません。実際、マイクロソフトのスライド作成ソフト「パワーポイント」に関するサイト内の表記は「投影」ですし、各プラネタリウム施設が用いる文字遣いも「投影」は少なくありません。
一方、新聞社の中に「投影」と「投映」の使い分けを採用する社が現れています。今のところ多数派とはいえませんが、二つを別々の言葉として使い分ける必要がどれくらいあるのか、検討材料の一つとしてお聞きしようと考えました。
(2020年06月01日)