「発出」という見慣れない言葉について伺いました。
目次
「違和感なし」は4分の1にとどまる
緊急事態宣言を「発出」する――カギの中、どう感じますか? |
意味は分かるし、違和感はない 25.8% |
意味は分かるが、「発令」などと言い換えたい 50.8% |
意味がよく分からない 23.4% |
政府が緊急事態宣言を出すに当たって使われた「発出」という言葉。文字から見て意味は分かるものの、「違和感はない」という人は全体の4分の1にとどまりました。「言い換えたい」という人がほぼ半数で最多。分からないという回答も4分の1あり、日常的に使用することはお勧めできそうにありません。
「発出」自体は古くからあるが…
回答から見られる解説にも記したように、こうした「宣言を発出」のような使い方を載せている国語辞典はあまり多くありません。日本で最も網羅的な国語辞典、「日本国語大辞典2版」(2000~01年)には「発出」の項目はあるものの、載っている意味は「①ある物事や状態が生じて外に現われること。また、現わし出すこと。②発疹が出ること。③出発すること。送り出すこと」。何かを告げ知らせるような意味は載っていません。
回答からの解説で引いた新明解国語辞典のほか、三省堂国語辞典7版が「文書・談話などを、外に向かって出すこと。『通知を―する』」という説明を載せています。これについては辞書編集者の飯間浩明さんが10年ほど前、三省堂辞書編集部のウェブサイト「Word-Wise WEB」の「談話を発出? 出発じゃないの?」と題したコラムで触れています。
「安倍首相がさかんに繰り返すので注目したことばもあります。たとえば、『発出』がそうです。(中略)『出発』ではありません。一種のお役所ことばです」とのこと。NHKニュースから談話を引用して「官房長官談話を発出をし……」という例を挙げており、ほかにも使用例が多いので、6版で新規項目として立てることにしたのだそうです。しかし他の辞書ではいまだにあまり見かけないようです。新語や新しい用法の目立つ大辞林4版にも載っていません。
「官公庁でしか用いないような集団語」とも
文部科学省に設置された諮問機関、文化審議会の国語分科会は現在、公用文の書き方に関する検討を進めています。1月の小委員会に提示された報告の素案は「専門用語以外の難しい言葉をどのように扱うか」という項目の中で、「特定の業界や職業に特有の集団語は、一般に使われる用語に言い換える」とし、「『発出』→『通達』など、官公庁でしか用いないような集団語を言い換える」と例示しました。やはり「発出」は、常識的に考えて「お役所言葉」と言わざるを得ないもののようです。
こうしてみると、アンケートで「言い換えたい」とした人が半数に上ったことも、当たり前の感覚に根ざした結果と言えそうです。文字の見た目としては「発」「出」ともに、何かを出す意味として受け止めることができるものですが、熟語としての「発出」は一般的とは言えません。使用は控えた方がよさそうです。
(2020年05月22日)
4月7日、安倍晋三首相は新型コロナウイルスへの対応で7都府県に緊急事態宣言を出しました。それを受けた記者会見で、首相は「緊急事態宣言を『発出』することとします」と述べましたが、毎日新聞は首相発言そのものを書き起こす場合を除き、ほとんどの場合に「発出」を「発令」などと言い換えました。
こういった「発出」の使い方を載せる辞書は少数です。そのうちの一つ、新明解国語辞典7版は「役所から通達などを出すこと」と説明し「局長通達を発出する」という例文を挙げており、典型的な官庁用語であることがうかがえます。
一般になじみが薄く、分かりにくいために言い換えているのですが、注目度の高い問題で、会見の様子がテレビでも繰り返し流され、今回この言葉に接した方は多かったのではないかと思います。みなさんはどう感じたでしょうか。
(2020年05月04日)