記事の見出しに「社保」という略語があった場合、どう受け取られるか伺いました。
目次
「社会保険」と受け止める人が7割
新聞記事の見出しで「社保」とあったら、何のことだと思いますか? |
年金、健保など「社会保険」 70.4% |
児童手当なども含む「社会保障」 6.1% |
記事を読んでわかるなら気にならない 9.5% |
わかりにくいので省略しないほうがよい 13.9% |
「社保」と見出しがあったときに、「社会保険」のことと捉える人が7割と多数を占めました。一方で「社会保障」と捉える人はわずか6%。社会保障関連の話題はニュースで取り上げられることも多いものですが、「社保=社会保障」と受け取る人は少なく、見出しだからといって言葉を省略し過ぎるのは考え物という結果になりました。
求人情報は「社保=社会保険」が普通
これは社会保障についての記事で実際につけられた見出しで、その際は校閲のデスクが「社会保険のほうが一般的なんじゃない?」と指摘し、「社会保障」と省略しない形で見出しがつけ直されました。
「社保=社会保険」という読み取り方は、求人情報などで「社保完備」とある場合に「健康」「厚生年金」「労災」「雇用」の4保険すべてに加入できるという意味が定着していることからだろうと考えられます。しかしながら、少子高齢化の影響もあって社会保障に関するニュースも多いのですから、「社保=社会保障」とする見方もあるだろうと思ったのですが……。
「略語」は新聞に付きものですが…
新聞では、記事中でも略語を使ったり、別称で記述したりすることがあります。理由の一つには文字数を削減し、限られた紙面でより多くの情報を伝えようとする意図があります。見出しの場合はさらに文字数が限られており、新聞で見出しを付ける整理記者は、決められた字数の中で可能な限り、記事の内容を表現しなければなりません。
時には見出しで略語/別称を使用するために、記事中の正式名称に丸カッコで略語を補うこともあります。たとえば、ブレグジットで登場回数が急増した「欧州連合(EU)」。記事中で1回しか出てこない場合は「欧州連合」とのみ記載することもできますが、紙面に組んだときに見出しで「EU」と取られているのを発見し、慌てて本文を「欧州連合(EU)」とすることもあります。
誰が読んでもわかる紙面を目指している以上、略語を使用する際は、それが何を指すかが自明でないならば、正式名称ないし説明が記載されていることが絶対条件となります。近ごろ気になるのが「SNS」。これは毎日新聞用語集では「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」(Social Networking Service)のことと説明します。しかしこの説明、「長すぎる」と記者に嫌われることもしばしばです。といって「SNS」はまだ浸透したとは言い切れないので、単独での使用はちょっと……。なんとかするため、2019年の用語集改訂では「ネット交流サービス」という短い説明も追加されました。
読者とズレない紙面作りのために
SNSは日本語への訳し方の問題とも言えますが、言葉の浸透具合によって、どのように表記するかというのは定期的に見直されています。ただし見直すにしても、一般の感覚とあまりにずれていては困るので、校閲記者は読者の「常識」を常に考えられる頭でいなくてはなりません。それでも、質問で取り上げた「社保」のように、「分かるだろう」と思ってしまって、皆さんの捉え方とずれてしまうこともあります。
ちなみに同期の記者に「社保ってなんの略だと思う」と聞いたら「社会保障かなあ」との返事でした。新聞社の中にいると、「社会保障」という言葉を見過ぎて感覚がずれてくるのかも。そのうち「社保=社会保障」が多数派になる日がくるかもしれないけれど、「読者の目」で記事を読むことを心がけなきゃ、と思った一件でした。
(2020年02月25日)
見出しは使える文字数が限られており、言葉を略すことが多くあります。安保(安全保障)、国連(国際連合)など一般的になったものもある中で、「別の言葉ともとれる」「省略するとわからない」といったものを略してしまうと、見出しとして不十分なものになってしまいます。
質問で挙げた略語は実際にあったもので、記事中に出てきた「社会保障」を意味するものでした。皆さんはもしこれを見たなら、何についての記事だと捉えたでしょうか。
新聞で見出しを付ける整理記者は限られた文字数でいかに記事内容を伝えるかという作業と日々格闘しており、その見出しを読者の視点でチェックするのも校閲の仕事。しかし、記事の内容を調べれば調べるほど先入観ができてしまい、後から見れば不十分な見出しでも、その時は「伝わる」と思ってしまうこともしばしばです。皆さんの意見を伺って、改めて気持ちを締め直そうかと思います。
(2020年02月06日)