読めますか? テーマは〈はがき〉です。
目次
はがき「1葉」
いちよう
(正解率 77%)はがきは通常「1枚」「1通」と数えるが、思い入れのあるものを詩的に表現したい場合は「葉」で数えることもある(飯田朝子著「数え方の辞典」)。「葉」は他に写真など薄く平たい物に使われ、太宰治「人間失格」の冒頭に「私は、その男の写真を三葉、見たことがある」とある。
(2017年05月29日)
選択肢と回答割合
いちよう | 77% |
ひとは | 12% |
いちまい | 11% |
郵袋
ゆうたい
(正解率 94%)郵便物を入れ輸送する革袋。6月1日の郵便はがき1枚52円から62円への値上げを控え、いま郵袋は駆け込みのはがきでいっぱいかも?
(2017年05月31日)
選択肢と回答割合
ゆうぶくろ | 4% |
ゆうふくろ | 2% |
ゆうたい | 94% |
不一
ふいつ
(正解率 75%)「不乙」とも書く。十分書ききれないとき手紙の最後に書き添える。「草々」などと同じく、冒頭の「前略」を受ける。
(2017年06月02日)
選択肢と回答割合
ふいち | 13% |
ふいつ | 75% |
ふひと | 11% |
◇結果とテーマの解説
(2017年06月11日)
この週は「はがき」がテーマ。
はがきといえば、「官製はがき」という表記は郵政民営化以来、不適切になったので「郵便はがき」などに何度直したことでしょう。私製はがきと区別するためにそう書いているのかもしれませんが、もしそうなら「私製はがき不可」と記せば済むことです。
一般的には間違いとはいえませんが「葉書」も毎日新聞では使わず「はがき」と仮名書きにしています。「はがき」には「端書」という漢字も当てられ、どうやらこちらが本来の用字のようですが、「はしがき」とも読めるこの表記に統一するわけにもいかず、「はがき」としているのです。
さて、「郵袋」について、「袋」はふつう訓読みで使うし、専門用語ともいえるので読みに迷うのではないかと予想していましたが、見事に外れました。
「1葉」はこれだけだと「ひとは」とも読める、少なくともそう思われる可能性があるため「はがき『1葉』」という形で出題しました。「ひとは」は「一つの葉」という意味で、オー・ヘンリーの短編の邦題として「最後のひと葉」(岩波少年文庫)が知られます。ただし「最後の一葉」を「いちよう」と読んでもかまいません。
「数え方の辞典」(飯田朝子著、小学館)には「は【葉】」の数え方として「枚、葉(よう)、葉(は)、つ」が掲げられ「『最後の一葉(いちよう、ひとは)』のように『葉(よう)』『葉(は)』で数えることもあります」とあります。
しかし「はがき」の数え方のところを引くと「枚、通、葉(よう)」となり「葉(は)」はありません。同書のコラムにはこうあります。
「葉」は木の葉のように小さなものだけを数えます。また、「葉」で数えられるものは、手にとって眺めていたいような、本人にとって思い入れのあるもの、ノスタルジックな感情をそそられるものが多いようです。
「葉(よう)」は太宰治「人間失格」の冒頭とラストに使われています。「私は、その男の写真を三葉、見たことがある」「三葉の写真、その奇怪さに就(つ)いては、はしがきにも書いて置いた」。出題者は長い間、これが読めず「さんよう」「さんまい」「みつは」の間で勝手に揺れていました。そういえば「君の名は。」のヒロインの名は「三葉(みつは)」でしたね。一方「人間失格」の主人公は「葉蔵」です。
「人間失格」のラストの舞台は千葉県船橋市。この船橋という地名は、「虚構の春」(新潮文庫「二十世紀旗手」所収)という小説でも出てきます。太宰治あてに届いたさまざまな人からのはがき、手紙をただ並べるという斬新な構成。太宰の分身のような読者の長文もあり、どこまで太宰自身の創作かわからない虚実ないまぜの面白さがたまりません。「船橋」が出てくるのは「拝啓」から始まる短い手紙で、「不一」で終わります。
「不一」は「ろまん灯籠」(新潮文庫)所収の「恥」「新郎」の中の手紙にも出てきて、いずれも「拝復」で始まります。「不一」出題時の解説には「『草々』などと同じく、冒頭の『前略』を受ける」と書き、手紙の書き方マニュアルのたぐいにもそうあるのですが、「拝啓」「拝復」を受けるのは「敬具」に決まっていて「不一」はありえない、というわけではないようです。
さて6月13日は太宰治入水自殺、19日はその遺体が発見された日であるとともに生誕の日でもあります。以前はまって卒業した人も、この機会に読み直してみませんか。