読めますか? テーマは〈古代史〉です。
目次
乙巳の変
いっしのへん
(正解率 47%)645年(干支は乙巳)6月12日に中大兄皇子らが蘇我入鹿を殺し、蘇我氏を滅ぼした政変。「大化の改新」はこれ以降の一連の改革をいい、事件名とはされなくなっている。
(2017年06月12日)
選択肢と回答割合
いっしのへん | 47% |
おつみのへん | 28% |
こっきのへん | 26% |
富本銭
ふほんせん
(正解率 68%)古代の銅貨。奈良県明日香村で1998年、大量に出土した。それまで最古の貨幣とされた和同開珎(わどうかいちん=「わどうかいほう」とも)よりも古いらしいが、貨幣としてどれだけ流通していたかなど不明な点も多い。
(2017年06月14日)
選択肢と回答割合
とみもとせん | 17% |
ふほんせん | 68% |
ふもとせん | 15% |
厩戸
うまやど
(正解率 89%)厩戸王(厩戸皇子)は聖徳太子のこと。死後に聖徳太子と呼ばれるようになった。中学歴史教科書の聖徳太子の記述について、文部科学省は新学習指導要領で「厩戸王(聖徳太子)」と変える案を示していたが、批判を受け現行通りの「聖徳太子」に戻した。なお山川出版社の高校教科書では厩戸王を「うまやとおう」と読ませている。
(2017年06月16日)
選択肢と回答割合
うまやど | 89% |
くりやど | 8% |
きゅうこ | 3% |
◇結果とテーマの解説
(2017年06月25日)
この週は「古代史」がテーマでしたが、歴史そのものというよりは主に漢字の情報としてお届けします。
とはいうものの、昔習った用語が今でも通用するかは押さえておく必要があります。例えば「中大兄皇子らが蘇我氏を滅ぼした大化の改新」という文があるとすると、大化の改新はそれ以後の一連の改革をいうので、この場合は「乙巳の変」とすべきでしょう。
この暗殺の舞台「飛鳥板蓋宮(あすかいたぶきのみや)」ですが、奈良県明日香村の史跡「伝飛鳥板蓋宮跡」は昨年「飛鳥宮跡(きゅうせき)」と文化庁が名称変更しました。
さて「乙巳」とは干支(かんし)の一つですが、「乙」をイツと読むのは「漢音」に基づきます。オツは「呉音」で、漢音より古い読み方です。645年当時はまだ呉音が一般的だったかもしれませんので「おっし」と読んでも間違いとはいいきれません。が、多分その後の漢音読みと使い分けるのは現実的ではないからでしょう、山川出版社の高校教科書「詳説日本史」をはじめ歴史書では「いっし」とルビがふられています。
「巳」を「み」と読むのは訓であり十干十二支で音読みにそろえるならシになります。なお「巳」は已然形の「已」、おのれの「己」と紛らわしいのですが、別の字ですので使い分けなければなりません。
「富本銭」の写真をよく見れば「本」は「大」の字と「十」が離れた「夲」になっています。漢和辞典によるとこれは本来、ホンではなくトウと読む別の字だったそうです。しかし「本」の異体字としても「夲」は使われていました。「大辞泉」では「富夲銭(ふとうせん)」も付記されていますが、調べた範囲では教科書も含めすべて「富本銭」の表記です。
いずれにしても、富本銭の1998年の大量出土は「和同開珎が最古の貨幣」としてきた長年の常識を覆しました。しかし、大辞泉の語釈にはこうあります。「日本で鋳造された銭貨の一。日本書紀天武天皇12年(683)に記載があり、和同開珎よりも古くからある銅銭とする説もあるが、大量に流通していた証拠はない」。そういえば山川の教科書でも「富本銭が日本最古の貨幣」とは書いておらず、「最古」という書き方には慎重であるべきでしょう。
ところで山川教科書の「和同開珎」のルビはまず「わどうかいちん」とあるのですが、漢字の下に「わどうかいほう」ともあり、両説を取っています。「漢字百珍」(八坂書房)で杉本つとむさんは珎をチンと読むのは「誤り」と断言し、寶の異体字(俗字)なので「わどうかいほう」が正しいとしています。
さて、異体字といえば「厩戸」の「厩」は異体字がたくさんあります。
①がんだれの中が「既」
②がんだれの中が「既」
③がんだれの中が「旣」(左下がヒのような字)
④がんだれではなく「まだれ」の中が「旣」
など。
以前の山川高校日本史では①でしたが今の教科書は②になっているようです。これは恐らく2000年の国語審議会「表外漢字字体表」で掲げられたのが②だったから合わせたのでしょう。
しかし国語審議会では③も「デザイン差」として認めています。毎日新聞では③の字を原則としています。ただ今回は、パソコンなど電子機器では②の字が標準になっていることから漢字クイズでは②の字としました。
④は岩波文庫の「日本書紀」で使われています。ルビは「うまやと」となっています。山川の日本史教科書でも「うまやと」です。
さて「厩戸」の出題の回答者は他より飛びぬけて多くなりました。これは山岸凉子さんの1980年代の漫画「日出処の天子」の影響がいまだに大きいことがあるようです。ではこの漫画での表記はどうでしょう。出題者がたまたま全巻持っていた白泉社「花とゆめコミックス」から第2巻カバーの一部を示します。
③ですね。偶然ですが毎日新聞の表記と同じということです。
ちなみに山岸凉子さんの「凉」は「涼」と間違えられることが多い、という記述を見ることがありますが、正確には「涼子」と書いても必ずしも間違いとは言えません。「凉」は「涼」の異体字とされ、人名に関しても異体字を避ける方針なら「涼子」と書くという判断もありうるのです。
しかし現実には「凉」と「涼」が異体字の関係、つまり実質的に同じ字という理解が一般的にあるという確信が持てず、「間違い」という指摘が予想されることから、異体字をなるべく使わない方針の新聞でも「凉子」とするところが多いのではないでしょうか。こういうところにも異体字を扱う難しさがあります。