2017年もやはり「旧盆」を直しました。
この1行だけで「ああ、『月遅れの盆』のことね」と分かる方もいらっしゃるでしょうが、説明します。
「8月中旬の旧盆のころ」という原稿が出てきました。「旧盆」は毎年のように直す言葉です。「毎日新聞用語集」では
旧盆期間にあたる8月15日前後は…→(月遅れの)お盆期間にあたる8月15日前後は…
「旧盆」は旧暦のお盆のこと。8月15日前後にあたるとは限らない。また、「新盆」は人が亡くなって初めて迎えるお盆のことで、新暦のお盆のことではない
と注意を促しています。
旧暦付きの2017年のカレンダーを繰ると、8月15日は旧暦の6月24日。旧暦の7月15日はというと、新暦では9月5日でした。旧暦と新暦のずれは年によりまちまちですから、たまたま1カ月ぐらいの差になる年はいいのですが、そうでない年に関しては「8月中旬の旧盆」というと不適切といえます。
ではどういえばいいかというと、正確を期するなら「月遅れ(の)盆」です。ただし、毎日新聞ではこの言葉は意外なほど使われていません。今は「お盆休み」といえば8月を指すせいか、単に「お盆」だけでも通用しそうです。毎日新聞用語集で言い換えとして(月遅れの)とカッコをつけているのも、そのあたりの実態を意識しています。
なお、文字通り旧盆、つまり旧暦に合わせて盆行事を行う土地もあります。例えば高知県四万十市の間崎地区では毎年旧暦の7月16日に「大文字の送り火」があります。送り火は、お盆に迎えた先祖の霊を死後の世界に送り返すとされる行事です。
大文字といえば京都が有名ですが、四万十市の送り火は室町時代、応仁の乱を避け、荘園のあった地に京都から移ってきた公家・一条教房の子、房家が、京都の大文字の送り火をしのんで始めたと伝えられ、500年以上の歴史があります。
本家である京都の大文字送り火の方は、毎年8月16日に行われています。この行事は今、「五山送り火」と書かれます。2009年に「京都五山送り火連合会」が行事の総称に「大文字」を用いず「京都五山送り火」に統一するよう京都市などに要請したのです。火の形は大文字、妙法、船形、左大文字、鳥居形の五つがあるので、大文字だけ取り上げるのは不適切ということでしょう。「大文字焼き」も「不謹慎な表現」としているそうです。
総称として大文字と呼ぶのが良くないということなので、大文字山(如意ケ岳)の送り火に限定すれば「大文字送り火」という呼称は間違いといえないはずですが、少なくとも毎日新聞では京都の行事に関しては「五山送り火」にほぼ統一されています。
「旧盆」にしても、現在では「8月15日前後の一般的なお盆をもさす」(三省堂国語辞典第7版)のように月遅れの盆の意味を認める辞書も現れていて、「8月15日の旧盆」も完全な誤りといえないという向きもあるかもしれません。しかし文字通り旧暦で盆行事をする所がある以上、混乱のもとになる用語は避けた方がよいでしょう。
【岩佐義樹】