気象警報には「発令」「発表」のどちらがなじむか伺いました。
目次
真っ二つに分かれる
水害への注意を促す洪水警報が出た――どちらの言い方がなじみますか? |
洪水警報が「発令」された 51.8% |
洪水警報が「発表」された 48.2% |
わずかな差で真っ二つに分かれました。「発令」の方がなじむという人が若干多かったのですが、その差は誤差の範囲内と言ってよいでしょう。
警報をメディアがどう捉えるか
極端な気象によって被害が生じかねない場合に出されるのが、注意報、警報、特別警報といった「防災気象情報」です。気象庁はこれらを出す場合に「○○警報を発表」としていますが、メディアによっては「○○警報を発令」と伝えることがあります。気象庁に合わせて「発表」を使うべきか、それとも「発令」の方が受け入れやすいのか、今回のアンケート差で差がつくようであればその結果を参考にしようかという思いもありましたが――さて、どうしましょう。気象情報自体には、人に何かをさせる強制力があるわけではないので、気象庁の言うとおり「発表」で問題のないことは確かですが。
問われているのはメディアの報じ方です。気象庁の発表をメディア側がどう捉えるか、ということでもあります。これに関し、先ごろ日本新聞協会の用語懇談会の大阪幹事会であったという、「発令」と「発表」についてのやりとりを見せてもらいました。それによると、辞書でも「発令」の項目で「警報を出す」と載せているものもあり、法令に基づいてしかるべき機関の出すものなら「発令」でよいのではないか、など「発令」寄りの意見が有力だったようです。また、伝わりやすく記事を書くということが肝要で、言葉の使い方はその都度判断されることではないか、という意見も見られました。
「危機意識を醸成」する言葉の使い方
防災情報の伝え方に関する気象庁の検討会は、気象防災情報の役割を二つにまとめています。いわく「市町村の発令する避難勧告等の判断を支援する役割」と「住民の主体的な避難を促すための危機意識を醸成する役割」です。前者は行政向け、後者は一般市民向けと考えてよいでしょう。行政向けに関してはメディアの役割は大きくありません。問題になるのは一般市民向けの「危機意識醸成」の方です。
この点からすると、中立的な表現の「発表」よりも、命令のニュアンスを帯びた「発令」の方が趣旨にかなう可能性はあります。警報自体に強制力はなくとも、その情報を得たならば身を守る行動をとるべきだ、という意図があるわけですから。気象庁の検討会の報告書では、自治体の避難勧告等が住民に対する「行動指南型」の情報とされる一方、気象庁などの情報は「状況情報」として「住民等の避難する『マインド』を向上させる」ものと位置づけられます。一般的にはメディアを通して気象情報を受け取る人が多い以上、メディア側もこうした趣旨に沿った報道が必要な場合はあるでしょう。
いずれも適切、使い分けでニュアンスに違いも
「発令」と「発表」のどちらが適切かを言うなら、アンケートの結果から見ても言葉の使われ方から考えても、いずれも問題なしと言うべきでしょう。どちらかに統一する必要がある言葉ではなく、警報の持つ「情報」としての側面を強調すれば「発表」が選ばれ、「警告」としての側面を重視すれば「発令」が使われると言えそうです。
(2019年11月01日)
気象庁の用語としては「発表」です。気象庁の「防災気象情報の伝え方に関する検討会」の報告書を見ると、気象庁や国土交通省の河川部局は警報等を「発表」し、それを「避難勧告等の発令判断に資する」防災気象情報として市町村が活用する、という位置づけです。強制力を伴う自治体の避難勧告などには「発令」が使われます。
「令」の字は元々「礼帽を着けて、謹み跪(ひざまず)いて神意を聴く人の形に作る。その神意は、神の命ずるところである」(白川静「字統」)。従わなければならない神のお告げを意味した文字が、人の命令にも通じるようになったものです。気象庁としては、警報などには「令」に含まれる強制的な意味合いがないので「発表」を使うということのようです。
しかし国語辞典では「発令」について「法令・辞令・警報などを出すこと」(明鏡国語辞典2版)などと説明するものが多く、「暴風雨警報が発令された」(新明解7版)、「強風注意報が発令される」(大辞泉2版)のように、気象情報について「発令」を使う例を示している辞書も少なくありません。
個人的には、マスメディアが気象情報に「発令」を使うことには、どことなくお上の命令を期待するような気分を感じて少し抵抗があるのですが、安全確保を促すためには気象情報の段階から強い言い回しを使うべし、という考え方もあり得ます。いかがでしょう。
(2019年10月14日)