「鍵をしめる」という言い回しについて伺いました。
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「しめる」を使う・使わないは半々
「鍵をしめる」という表現。「あける」と対になるわけですが、どうですか? |
使う。「鍵を閉める」と書く 32.8% |
使う。「鍵を締める」と書く 15.1% |
使わない。「錠をしめる」を使う 3.1% |
使わない。「鍵をかける」を使う 49% |
「鍵をしめる」と言うか言わないかは、およそ真っ二つの結果になりました。「鍵をかける」を使う人が半数近くを占め最多でしたが、「閉める」「締める」を合わせればやはり半数近くの人が「しめる」を使うと回答。中でも「閉める」の割合が多く、あまり違和感を持たれていないことがうかがえます。「錠をしめる」は表現として不自然に見えたようで、ほとんど選ばれませんでした。
ニュースにも出る「鍵を閉める」
先日、沖縄の動物園でサルが集団脱走する事件があり、「職員がサル舎の鍵を閉め忘れた」のが原因と報じられました。扉は閉めてあったけれども鍵がかかっておらず、サルが自分で扉を開けて脱走したとのこと。動物園の管理状態もさることながら、「鍵を閉める」という表記が気になりました。
「閉める」と「締める」の使い分けは、文化審議会国語分科会の報告「『同訓異字』の漢字の使い分け例」(2014年)に従うと、「締める」は「緩みのないようにする。区切りを付ける」、「閉める」は「開いているものを閉じる」とされます。
用例に「鍵を~」はなく、「ねじを締める」「扉を閉め切りにする」といった例から類推することになります。昔の窓にはネジ式の鍵もあったことを考えると「鍵を締める」でよいようにも思えますが、南京錠のようなものが開いているのをパチンと閉じる場面を想像すると「閉める」もよさそうに思えます。さて、困りました。
「鍵を締める」を推す考え方も
円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)は次のように言います。
《閉》は“出入り口をふさぐ”ところに意味の中心があるのに対して、《締》は“糸やひもなどで固定する”“ひねって固定する”ところに出発点がある。(中略)「玄関の戸を閉める」は、ふつうは《閉》。これが「玄関の鍵を締める」になると、戸を“きちんと固定する”ための動作だから、《締》を書く。同様に考えて、「戸締まりを忘れずに!」も、ふつうは《締》を使う。
使い分けについては国語分科会の考え方と軌を一にするものですが、具体的な使い方が目を引きます。「戸を閉める」といい「鍵を締める」という。簡単には開かないよう、緩まないようにしっかりと固定する意味では、単に開閉をいうだけではない「締める」が適切ということでしょう。
実際には「鍵をかける」が多い
とはいえ、このような使い分けに悩むのが嫌ならば「鍵をかける」を使うのがお勧めです。アンケートでもほぼ半数の方が「かける」を選択しました。毎日新聞(東京本紙)の使用例も、2009~18年の10年間で、鍵をかける(活用形を考慮して「鍵をかけ」で検索。以下同様)が107件▽鍵を掛ける40件▽鍵を閉める14件▽鍵を締める3件――と、「かける」が「しめる」に差を付けています。
ちなみに同期間で「錠をし(閉、締)める」は0件。これはやはり言い回しとしてうまくなかったと思います。「錠をお(下)ろす」が3件、「錠をか(掛)ける」(「手錠を~」を除く)が11件。ただし「錠」が出てくるのは小説などの例が多く、一般記事ではレアケースです。NHKの「ことばのハンドブック2版」(2005年)は「かぎを開ける」の項目で「『錠(前)を開ける』が、もともとの言い方であるが、『かぎを開ける』『かぎをかける』という表現も、一般に使われている」としています。「錠」の意味で「鍵」を使うのが普通になっていることがうかがえます。
「鍵を閉める」は正直なところ、面倒な引っかかりを含んだ表現だと思いますが、3割ほどの人が使うというのは意外に多く、認識を改めました。やはり「開ける」の対語としての分かりやすさがあるのでしょう。ただし「締める」をよしとする意見もあるように、一定の留保が必要であるとは感じます。面倒を避けるには「鍵をかける」が現時点での第一選択肢だろうと考えます。
(2019年07月19日)
「鍵をあける」という表現については、書き方を問うならほとんどの人が「開ける」と答えるでしょう。それなら「開ける」の対語は「閉める」だから「鍵を閉める」でOK!と言えるかというと、そうでもないのが日本語の難しいところです。
問題が2点。一つ目としては、戸をしめるような「閉じる。とざす」(広辞苑7版)という動作は「閉める」で決まりなのですが、ロックする動作はそれでよいのかということ。「固く結んだり、ねじったりして、ゆるまないようにする」(同)という場合は主に「締める」が使われます。
二つ目としては、そもそも「鍵をしめる」は「錠をしめる」にすべきではないかということ。「鍵」は錠にさし込む棒状のものであって、あいたりしまったりするのは「錠」のはず。もっとも現在では「鍵」に「錠」の意味を含めることも多く、「錠あけ、錠しめ」よりは「鍵あけ、鍵しめ」をよく見ます。
個人的には「鍵をかける」を使います。窓のクレセント錠のように鉤(かぎ)状のものを引っかける場面にもなじむので使いやすい、というのが理由。皆さんはいかがでしょうか。
(2019年07月01日)