読めますか? テーマは〈哲学〉です。
目次
止揚
しよう
(正解率 77%)対立する二つの要素が、それぞれの本質を失うことなく、より高い段階で統合されること。ドイツの哲学者ヘーゲルが用いた「アウフヘーベン」の和訳。希望の党の小池百合子代表は「アウフヘーベン」という言葉を使って新党を止揚しようとしたが、うまくいかなかった。
(2017年10月30日)
選択肢と回答割合
しあげ | 7% |
しよう | 77% |
とめあげ | 17% |
捨象
しゃしょう
(正解率 70%)概念を抽象するとき、必要でない要素を排除すること。排除といえば、希望という抽象概念を掲げた政党は党首の排除の姿勢によって反発を招いた。
(2017年11月01日)
選択肢と回答割合
しゃしょう | 70% |
すてぞう | 4% |
しゃぞう | 26% |
演繹
えんえき
(正解率 64%)一般的な原理からある事柄を推論すること。逆に個々の事柄から一般的な原理を引き出すことは「帰納」。明治の思想家、西周(あまね)の訳語。「哲学」も西の訳語だ。なお「文化」も、明治の学者がドイツ語の訳として中国古典語に新たな意味を加えたという。
(2017年11月03日)
選択肢と回答割合
えんざん | 5% |
えんえき | 64% |
えんたく | 31% |
◇結果とテーマの解説
(2017年11月12日)
この週は「哲学」。新語・流行語大賞の候補にも選ばれた、小池百合子さんの「アウフヘーベン」発言がきっかけです。
アウフヘーベンの訳語が「止揚」です。しかし「しよう」なんて聞いたこともないという人にとっては、「アウフヘーベン(止揚)」とカッコなどで説明されても、意味はもちろん読みもよく分からないということを今回の結果は示唆しています。「止揚」と同じくアウフヘーベンの訳語に「揚棄」というのがありますが、これも分かりにくいですね。
「止揚」の意味について、「世界大百科事典」(平凡社)からかいつまんで引用します。
この語(アウフヘーベン)は「保存する」「否定する」の2義を有し、「抽象的否定」と異なる「意識の否定」の内容をよく表現するといい……分裂した諸要素が互いに闘争し、内部に浸透しあい、その過程をとおして統一され、高度に発展した事態が成立するとき、諸要素が統一の中に止揚されたといわれる。
なるほど、小池百合子さんが「排除」の論理をふりかざしたのはアウフヘーベンの「否定」、いや小池さんの意識における「否定」からくるものか。そして失敗したのは、内部で闘争を繰り返すことを恐れるあまり、互いに浸透しあい統一する過程を排除したからだ――と妙に納得しました。
「捨象」は「広辞苑」第6版ではいわゆる空見出しで「抽象」に誘導されます。そこで「抽象」を引くと
事物または表象の或る側面・性質を抽(ぬ)き離して把握する心的作用。その際おのずから他の側面・性質を排除する作用を伴うが、これを捨象という。
つまり「抽象」とは「排除」「選別」をおのずから伴うということ。アウフヘーベンに限らず抽象的な概念にはそれそのものに選別がつきものといえます。
ところで、抽象も捨象も「象」という字が付きますが「象」は動物のゾウの「象形文字」といいます。つまり具象というか、目に見えるモノだったものが目に見えない抽象概念をも表すようになったのです。今では抽象、現象、印象などの熟語から動物のゾウのイメージは捨て去られています。そういう意味では「捨象=すてぞう」といえないこともないかも……いや冗談です。
さて、テーマにもなった「哲学」という言葉は西周が始めた訳語とされます。その他にも西の作り出した翻訳語はたくさんあり、山口仲美著「日本語の歴史」(岩波新書)によると、
哲学関係の語に限っても「帰納」「演繹」「外延」「内包」「先天」「後天」「概念」「現象」「主観」「直覚」「定義」「本能」「命題」。みな彼の造語です。
ということです。日本語への貢献度がずいぶん高い人なのですね。
その中から「演繹」を出題してみましたが、思ったほどの正解率ではありませんでした。この語は必ずしも哲学に限らず、会話でも「あいつは演繹的に考えないよなあ」という話を聞いたことがあります。多分「これまでの経験にだけ頼って応用が利かない」程度の意味だったと思います。
いうまでもなく、哲学的な言葉を日常的に使う人が偉いわけではありません。重要なのは、論理的に考えたうえで分かりやすく伝えることです。言葉はコミュニケーションの手段なのですから。