期限を先延べする場合の表現について伺いました。
目次
3分の2は「延長」選ぶ
期限を先に延ばします――漢語ではどう表現しますか? |
期限を「延期」する 25.3% |
期限を「延長」する 67.7% |
どちらでも問題ない 7% |
期限を先に延ばすという場合、漢語なら「延長」を使うとした人が3分の2を占めました。「期限」というポイントを長く引き延ばすわけではありませんが、期限までの日にちを延ばすという意識が働くのだと考えられます。
国語辞典の説明は「延期」を示唆
期限を「繰り延べる」「先延べする」といった表現を使えば済むところで、あえて漢語で表現する必要はあるのか。主に新聞の事情としては、特に字数制限の厳しい見出しには漢語を使って字数を減らしたい、ということがあります。「繰り延べ」や「先延べ」よりも「延期」「延長」の方が短いことはご覧の通りです。また、文中でも漢語を使った方が引き締まって見えると考える人もいそうです。
「延期」「延長」についての国語辞典の説明は、以下のようなものです。
延期
あらかじめ決めた時間・期日をのばすこと。(三省堂国語辞典8版)
決められた期日・期限を先にのばすこと。(明鏡国語辞典3版)
予定の期日をのばすこと。▽物事の実行を遅らせることにも、行う期間をさらにふやすことにも言う。(岩波国語辞典8版)
〔ある事を行なう場合に〕予定の期日や時刻を遅らせる(長く延ばす)こと。(新明解国語辞典8版)
延長
〔長さや期間などが〕先へのびること。また、のばすこと。(三省堂)
決まった長さ・期間などをのばすこと。(明鏡)
物事の長さ・期間を更にのばすこと。↔短縮。(岩波)
区間・期間・時間・線分などが先に延びること。また、延ばすこと。(新明解)
期日を動かすのが「延期」、期間をのばすのが「延長」というのは明らかなように思います。岩波と新明解は「延期」の記述で、「延長」に近い用法にも触れていますが、第一義として期日を動かすこととするのは他の辞書と同様です。
何がより意識されているのか
しかし、アンケートの結果は3分の2以上の人が「期限を延長」を選んでおり、「期限を延期」とした人の2倍以上を占めました。これはどのように受け取るべきでしょうか。
今回の質問の元になったのは、いわゆる「トランプ関税」についての記事で、米国が中国製品に課す関税の停止期限を先延べしようとしている、という話でした。すなわち関税の停止期間が長くなるということです。表面上の記述は期限という日付を動かすというものだとしても、そこに至る停止期間がより長く持続することから、「延長」と書くことへの違和感が持たれにくいのではないでしょうか。
特定の日付といっても、たとえば映画の公開予定が「延期」されると書かれることはありますが、公開予定が「延長」された、とは書かれません。日付を繰り延べる場合には「延期」を使うというのは間違いないことでしょう。ただしそのうえで、ある日付が先延べされるとしても、そこに至る状態の持続が強く意識されるのであれば、「延長」を使うこともあり得ると考えるべきかもしれません。
そこは「期限」じゃなくてもよいのかも?
ところで当該のトランプ関税の記事では、掲載日の夕刊の見出しは「米中、関税停止期限延長」となっていましたが、その記事と同じトピックを扱った朝刊の見出しでは「米中関税停止を延長」となっていました。停止という状態が延びるということを説明できればよいのですから、この見出しで十分です。
「期限を延長」は出題者にとって気になる使い方ではありますが、アンケートの結果から見て誤りだとは言えないと考えます。一方で、わざわざ「期限」を使わなくても問題ないのであれば、あえて使うほどの表現でもなさそうです。落ち着いて表現を吟味できる場合には、より良い表現を選びたいところです。
(2025年09月01日)
世を騒がすトランプ関税。米国と中国の交渉の記事で「関税停止期限延長」という見出しを目にしました。期限を「延長」ねえ……延長は「決まった長さ・期間などをのばすこと」(明鏡国語辞典)だから「延期」の方がよさそうだけれど、と記事本文を見るとやはり「関税停止期限を延長する方向で一致」と書いてあります。
「延期」は「決められた期日・期限を先にのばすこと」(同)。イメージとして、線状の「期間」を前方・未来にのばすのが「延長」だとすると、点状の「期限」を動かすのが「延期」だといえます。してみると記事も見出しも言葉の使い方としては今一つ、ということになります。
ただし「期限を延長」という用例は過去記事を見ると「期限を延期」よりずっと多いのです。「期」が重複しているように見えるのが嫌われるのかと考えましたが、これも推測。皆さんがどう感じるかを参考にしたいと思い、伺ってみました。ちなみにこの記事は夕刊の紙面に載ったものですが、同内容の記事を朝刊用に更新したものには「関税停止を延長」という見出しが付いていました。これなら違和感はありません。
(2025年08月18日)