仲間も舌を巻く校閲の「いい仕事」の裏側を紹介する「校閲グッジョブ!」。今回は米国のトランプ大統領の写真説明の例です。きちんと原典に当たり、事実がゆがめられていないか確認する大切さがよく分かる例です。
米国のトランプ大統領が、ネットニュースの記事をプリントした紙を手にしている写真の説明文です。
<校閲前>
保守系オンラインメディアによる南アフリカの殺害された白人に関する記事を印刷した文書を掲げるトランプ大統領
この写真でトランプ氏が手にしている記事に「南アフリカで白人殺害が行われたということは書かれていない」と指摘しその部分を削除する直しが入りました。
<校閲後>
保守系オンラインメディアの記事を印刷した文書を掲げるトランプ大統領
担当者はどうやってその指摘にたどりついたのでしょうか。
こちらの記事についている写真の説明文です(権利関係によりここに写真を載せることはできませんが、リンク先の記事で写真をご確認ください)。まずは写真の背景について。記事に書かれている通り、2025年5月、トランプ米大統領が南アフリカのラマポーザ大統領と会談した際「南アの少数派白人が『迫害』されている」「白人農民が多数殺害されている」などと主張し、いくつもの動画や記事を印刷した文書を「証拠」として示しました。写真はこの会談時に撮られたもので、トランプ氏がネットニュースのような記事をプリントした紙を手にしている場面です。
説明は「保守系オンラインメディアによる南アフリカの殺害された白人に関する記事を印刷した文書を掲げるトランプ大統領」でよいでしょうか?
実は会談直後から、トランプ氏が証拠だとして示した映像や写真の中に誤った内容が含まれていた疑いが複数の海外メディアから指摘されていました。南アフリカではなくコンゴ民主共和国で撮られたものや、全く別の場面の映像が含まれているのではという内容です。
○https://www.reuters.com/world/africa/under-attack-by-trump-south-africas-ramaphosa-responds-with-trade-deal-offer-2025-05-21/
○https://www.reuters.com/world/us/trump-makes-false-claims-white-genocide-south-africa-during-ramaphosa-meeting-2025-05-21/
○https://www.bbc.com/news/articles/ce81334je72o
まず、写真に写っているメディアのロゴや海外メディアの報道などから、手にしているのは「アメリカン・シンカー」というメディアの記事だということが分かりました。記事の執筆者名やリリース日などを手がかりに、アメリカン・シンカーの記事一覧から問題の記事にたどり着きました(Let’s talk about Africa, which is where tribalism takes you)
※現在は画像などが別のものに差し替えられています
翻訳機能などに頼りながらこちらの記事を読み込んでいくと、南アフリカに触れている部分はありますが、内容は白人の土地を収用する動きを批判するもので、白人農民殺害についての記述は見あたりません。トランプ氏が「これが埋葬地だ。彼らは全員、埋葬されようとしている白人農民だ」と白人農民殺害を裏付ける証拠だとして示した写真についても、そのような場面の写真だと解釈できる記述はありませんでした。さらに、問題の記事を執筆した「アメリカン・シンカー」の記者本人が、画像の誤認だと話したという海外報道も見つかりました。
客観的に見て、トランプ氏が手にしている記事を「南アフリカの殺害された白人に関する記事」とは言えないように思われます。相談の上、「殺害された白人に関する」というくだりを削除することになりました。
偽情報や陰謀論の拡散が、世界的に大きな問題になっています。きちんと原典に当たり、事実がゆがめられていないか確認する姿勢はますます重要になるでしょう。