「堪」「耐」の使い分けなどについて伺いました。
目次
「堪え得る」が半分弱で最多
後世の評価に「たえ得る」仕事――漢字で書くなら、どうしますか? |
耐え得る 31.4% |
堪え得る 47.5% |
「得」を抜き「耐える」とする 7.3% |
「得」を抜き「堪える」とする 13.7% |
「堪え得る」が最多で半分弱、次いで「耐え得る」が3割。「堪える」「耐える」は合わせて2割程度でした。
どちらも「間違い」にはならない
文化庁の「言葉に関する問答集9」(1983年)は「漢字の『堪』と『耐』とを、その字義の上から、常に厳密に使い分けることは難しい」とします。ただ、この2字を含む熟語を見比べると、「がまんする」「もちこたえる」といった意味では「耐」を使うものが多いため、「和語の『たえる』においても、『がまんする』、『もちこたえる』の意味の場合は、『堪』でも誤りではないが、一般には、『耐』が用いられることが多いようである」としています。
それ以外の意味、「……に対する十分な能力がある」「……するだけの値打ちがある」などの場合は「人によって感じ方は違うであろうが、『耐』ではかなり違和感があるので、『堪』を用いるのが一般的であろうと思われる」と言います。「感じ方」を根拠に持ち出すこの書き方は、規範を示すものとしてはやや弱めで、どちらを使っても「間違い」にはならない、ということになりそうです。
後ろ向きな「耐」と前向きな「堪」
その上であえて「後世の評価に~」のような形で使う場合、どの文字遣いがよいのかを考えてみます。円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(2016年)によると「耐」は「”我慢して守り抜く”というニュアンスの強い、やや後ろ向きの漢字である」と言われます。
一方の「堪」は「”苦しみを進んで引き受ける“とか“苦しいことを行う能力がある”といった、前向きな意味合いを含む。たとえば、『堪能』は、もともとは『かんのう』と読み、”すぐれた能力がある”という意味。(中略)前向きなニュアンスがあるところから、《堪》の訓読み『たえる』は、”最後までやり抜くことができる”という意味で用いられる」と言います。
「後世の評価に~」のような場合には、評価する視線に対して人や物が「守り抜く」感じをイメージするなら「耐」を使うことに、そのまなざしを最後まで受けおおせるという捉え方であれば「堪」を使うことになるのではないでしょうか。そしてさらに、「評価」というものが対象を攻撃するばかりではなく、良い面を認めるものでもあることを考えると、「耐」は少し後ろ向き過ぎるように感じられます。
「堪える」に「得る」は不要か
また同書で円満字さんは「《堪》の訓読み『たえる』には”できる”という意味合いが含まれているため、『たえられる』『たえられない』の形で使うと、意味の重複になる」と言います。辞書でも「たえる」の項目で、「[堪]それだけの力があって十分に満足させることができる」(明鏡国語辞典2版)、「その任に応じ得る。それをすることができる。それだけの値打ちがある。(中略)『堪』を使うことが多い」(現代国語例解辞典5版)などとするものがあります。
以上を参考にすると「堪える」には「できる」という意味が含まれていると考えて差し支えなさそうです。すなわち「堪え得る」の「得る」は可能を表す接尾語なので不要、「堪える」とするのがよい、ということになります。
ただし、ツイッターでは「堪え得る」の「得る」は可能性の表現と考えて、そのままでもよいのではないかとの意見もありました。表現される内容には揺らぎが生じますが、そう考えれば「堪え得る」を選ぶことにも一理あります。アンケートでは「堪え得る」が多数でしたが、「後世」という未来に関しては、可能性のニュアンスを帯びた表現がなじむと考えられたと言えそうです。
昨年の年末に、「今年の漢字」として「堪」を挙げた閣僚がありました。毎日新聞の記事によると「私も一生懸命に堪えて頑張っている」「『○○に堪えうる』などのポジティブな意味も含まれる」などと言ったとのこと。前者は「耐」にしてほしいところ、とは思いましたが誤りではありませんからよしとして、当の大臣は自身が「任に堪える」存在だと言いたいのでしょう。自負も結構ですが、昨年は批判に耐えるだけで精いっぱいだったという印象。後世の評価に堪える存在になれるのでしょうか。
(2019年01月29日)
「堪える」と「耐える」の使い分けと同時に、「たえ得る」と「たえる」のどちらを使うかについて伺いました。
「堪」「耐」については毎日新聞用語集でも使い分けを案内しています。いわく「耐」は「こらえる」、「堪」は「抑える、値する」であると。今回挙げたケースに近いものを引くと「批判に耐えて初志貫徹」「批判に堪えるような徹底調査」という例が載っています。前者は「批判に負けずに」という意味、後者は「批判を加えるに値する充実した内容」というニュアンスを含みます。
一方で気になるのは「得る」。動詞の連用形に付いて「可能」の意味を表す要素です。ここで文化庁の「『異字同訓』の漢字の使い分け例」(2014年)を見ると、「堪える」の説明には「その能力や価値がある」と記されています。例として「任に堪える」「批判に堪える学説」など。要求に応えることができる、という意味を含んでおり、「得る」を付けるとやや重複感があります。「耐える」には「苦しいことや外部の圧力などをこらえる」とあり、用例の「重圧に耐える」も「重圧に耐え得る」として違和感なく使えそうです。
以上から、「堪える」か「耐え得る」が選択の対象になるのでは。そのうえで、当方が選ぶならば「堪える」ではないかと考えますが、ここは皆さんの選択が気になるところです。
(2019年01月10日)