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プロ野球初の珍事
3月31日、西武ライオンズの中島裕之選手が「1イニング2盗塁死」というプロ野球初の記録を作りました。記事を読み始めた時には「一度盗塁失敗してアウトになった後、打者一巡の猛攻で再び出塁し、さらに盗塁失敗してしまったのか」と想像。しかしイニングスコアを見てみるとこの回、西武に得点はありません。校閲としては「回を間違えたんじゃないか?」と不安になってしまうのですが、事実はそうではありませんでした。
相手失策でセーフも「盗塁死」
この回、中島選手は一度投手のけん制に引っかかり一塁と二塁の間に挟まれてしまいますが、相手の失策のおかげでアウトにされずに済みました。アウトカウントは増えないのに、記録上はこれを「盗塁死1回」と数えるのです。さらに中島選手はもう一度けん制で飛び出してしまい、今度こそアウトに。これも盗塁死1回に数えられたため、1イニングで2度盗塁死したという記録になったのです。
スポーツ記事では、スコアをはじめ記録としての数字が非常に重要で、紙面に誤った数字を載せてしまうのは何としても避けたいところ。そのため校閲は数字の整合性に神経を使います。しかし中島選手の例では、表面的な見方では分からない、数字の裏にひそむものを見せつけられたのでした。
「1イニング4奪三振」「被本塁打1で自責点0」も
「あそこで失策をしていなかったら」「この回にもう1点とれていれば」。スポーツではこうした「たられば」は禁句だと言われます。それでも今回の例では、1度目はアウトにならなかったけれど「失策がなかったら」盗塁死していた、と記録に残りました。また4月14日には巨人・沢村拓一投手が、「捕手がきちんと取っていれば」アウトだった振り逃げの分を含め「1イニング4奪三振」という記録を作りました。他にも、ファウルフライを野手が落球してしまい、その直後に本塁打を打たれた場合、「本来ならその本塁打は存在しなかった」として、「被本塁打1で自責点0」などという一見不可解な記録が現れることもあります。記録の中には実は、「たられば」の世界が隠れているのです。
【林弦】