読めますか? テーマは〈線香の原料〉です。
目次
栴檀
答え
せんだん
(正解率 71%)中国ではビャクダン科の常緑高木だが、日本でセンダン科の落葉樹を指す。線香に用いるのはビャクダン。ことわざ「栴檀は双葉より芳し」は、発芽した頃から早くも香気を放つことから、子供の時から優れていることを表す。
(2013年03月18日)
選択肢と回答割合
さいだん | 7% |
せんだん | 71% |
びゃくだん | 21% |
伽羅
答え
きゃら
(正解率 83%)ジンチョウゲ科の木からとれる香木「沈香(じんこう)」の最上級のもの。香道でも使われるが、むしろ食べ物のキャラブキで有名だろう。伽羅色(濃い茶色)にフキを煮詰めることから。
(2013年03月19日)
選択肢と回答割合
がら | 5% |
がらん | 12% |
きゃら | 83% |
丁子
答え
ちょうじ
(正解率 73%)フトモモ科の植物。丁字とも書く。つぼみが釘(くぎ)の形に似ることからの字。つぼみを乾燥させたものが、スパイスとして使われるクローブだ。なお「ていし」と読むとオタマジャクシのことになる。
(2013年03月21日)
選択肢と回答割合
ちょうじ | 73% |
ていじ | 13% |
でいご | 14% |
茴香
答え
ういきょう
(正解率 76%)セリ科の植物。若い葉や種はハーブやスパイスとしてピクルスの香りつけなどに利用され「フェンネル」と呼ばれる。茴香の字は口臭を元通りにしてくれるので、回に草冠をつけてできたという。モクレン科で「八角」とも呼ばれる「大茴香(だいういきょう)」と区別し「小茴香」ともいう。ともに線香の原料になる。
(2013年03月22日)
選択肢と回答割合
ういきょう | 76% |
かいきょう | 9% |
かいこう | 15% |
◇結果とテーマの解説
(2013年03月31日)
この週は「線香の原料」をテーマにしました。お彼岸を意識したものです。
正解率は71~83%と割合いい方で接近した数字が並んでいます。いずれも日常生活で目にする機会はあまりない字のはずですが、どこかで見聞きした記憶が残っているのでしょうか。
「伽羅」は最も正解率が高くなりました。ところで、出題者が好きな作家に「虚無への供物」が代表作の中井英夫という人がいました。1993年没なのでもう20年になるんだなあ。「香りへの旅」という実用書ならぬ「虚用書」があり(創元ライブラリ「中井英夫全集11」所収)、香道の体験記で伽羅についての印象を詩のように記しています。
――伽羅。それは、ある甘酸っぱさ。仄(ほの)かでありながら芯の勁(つよ)いもの。
この本には美しいカラー写真がふんだんに添えられ、「香りの原料」というページには伽羅のほか、この週で取り上げた茴香、丁子の写真もあります。また「白檀」もありますが、これは日本で「栴檀」と誤認されたものです。日本でセンダンとされるのは楝(おうち)とのことですが、これも難読ですね。栴檀はいかにも難しい字で、実際今回最も数字が低くなりました。ただ「栴檀は双葉より芳し」ということわざを知っていれば答えられたと思います。
さて、「中井英夫全集11」の解説で作家の森真沙子さんが「香りへの旅」について「本書には〝匂い〟という言葉がほとんど出てこない」と指摘して、匂いと香りについての重要な考察を行っています。
――匂いにはなく、〝香り〟にあるもの。それはあくなき憧れ、果てまで行かんとする底知れぬ欲望、言ってみればある種の狂気ではないだろうか。
作家らしい情念に基づく直観です。これに対し、言語学者として「匂いと香り」の違いを説明しているのが堀井令以知さんの「ことばの由来」(岩波新書)です。「匂う」は元来、色が美しく映えること。万葉集に「咲きにほえるは桜花かも」とあるのは桜が美しく輝くことを表しました。「香る」の方は、元は煙や霧が漂うことだったということで、
――物の気が漂うことから、香気を感じることをいうようになったのである。
と堀井さんは記します。物の気。狂気。作家の直観と学者の分析がここで結びつきます。
なお、堀井さんは2013年3月10日、亡くなりました。亡くなった人は四十九日まで線香の香りを食すといいます。堀井さんが
味わっているのは、やはり物の気としての香りでしょうか。