大接戦と言われながらもトランプ次期大統領の圧勝で終わった米大統領選。しかし大統領選はここで終わりません。あまり注目されませんが、12月には「選挙人投票」が行われます。その日程にまつわるコラムです。
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米大統領は「選挙人投票」を経て決定
11月5日に行われた米国の大統領選では、共和党のトランプ前大統領が当選を確実にしました。民主党のハリス副大統領との大接戦と言われた選挙戦も、ふたを開けてみればトランプ氏の圧勝に終わり、来年1月から第2次トランプ政権が発足することになります。
ところで、米国の大統領選は2段階方式となっています。5日に行われた一般投票によって全米の538人の「選挙人」が確定しました。トランプ氏は過半数ライン(270)を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、この選挙人によって行われる12月の選挙人投票で大統領選の勝者が正式に決まります。選挙人は自分が所属する政党の候補者に投票するので、選挙人投票で一般投票の結果が覆ることは基本的にありません。その後、来年1月の連邦議会での正式決定を経て、トランプ氏は大統領の座を手にします。
ほとんど形式化されていてあまり注目されない選挙人投票ですが、先日こんな原稿がありました。
調べると、今年の選挙人投票日を12月16日とする情報がいくつか出てきたので、筆者は一旦OKとしてしまいましたが、再校者から17日とする情報もあると指摘がありました。再度調べ直すと、確かに17日とも出てきます。一体どちらが正解なのか……。
月曜か火曜か
米国の大統領選の一般投票日が、法律によって「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」(the Tuesday next after the first Monday in November)と定められていることは有名です。実は選挙人投票日も法律で定められています。
こちらの記事(選挙人投票|きょうのことばセレクション 詳細|経済ナレッジバンク|日経をヨクヨムためのナビサイト – nikkei4946.com)によると、選挙人投票日は「12月の第2水曜日後の翌月曜日」。実際、前回2020年の大統領選では、条件に合致する12月14日(月)に選挙人投票が行われました。今年で言えば12月16日(月)に当たります。
ところが、日本語ではあまり見つからなかったものの、英語で検索してみると選挙人投票日を「the first Tuesday after the second Wednesday in December」(12月の第2水曜日後の最初の火曜日)としているものが多数見つかりました。こちらに基づくと今年は12月17日(火)で1日ずれます。月曜か火曜か、この原稿を読んだ時、結局それ以上のことは分からず、出稿元に問い合わせることにしました。
出稿元の回答は「17日への修正をお願いします」。根拠として米選挙支援委員会の公式資料をいただきました。
確かにこの日程表には17日と明記してありますが、筆者が行き詰まった「月曜か火曜か」という問題については書かれていませんでした。しかし、17日とする有力な根拠を得たので、原稿は「17日」に直して校了しました。
法律が変わっていた!
原稿は校了しましたが、それでも謎が解けない気持ち悪さが残ったので、時間のある時にじっくり調べてみることにしました。すると一つの英文記事(How Electoral Votes Are Counted for the Presidential Election | Brennan Center for Justice)にたどり着きました。
この記事によると、2022年12月に米国で「選挙人集計法」が改正されました。背景には2021年1月に起きた米連邦議会襲撃事件があります。2020年の大統領選でトランプ氏は自らの敗北を認めず、連邦議会で行われていた選挙人投票の公式集計がトランプ支持派によって妨害されました。前例のない大事件の再発を防ぐべく、バイデン政権は法改正に踏み切りました。
実はこの時、選挙人投票日も変更されています。記事には「the Electoral Count Reform Act moved the meeting one day later than under the original law」(改正選挙人集計法により、投票は従来の法律より1日遅くなった)と書かれています。法令(3 USC 7: Meeting and vote of electors)にも「substituted “Tuesday” for “Monday”」(「月曜日」を「火曜日」に置き換えた)との文言があり、今回の大統領選から選挙人投票日が「火曜日」に変わっていたのでした。
原稿を読んでいて浮かんだ疑問は、その場ですぐに解決できるとは限りません。自分で持った疑問はなるべく大切に……。なかなか毎回できることではありませんが、今後も精進したいと思います。
【森憧太郎】