会社や学校など、住居以外の所在地に「住所」は使えるかうかがいました。
目次
「変」の回答は4分の1にとどまる
会社や学校などの「住所」はどこそこ――変ですか? |
「住所」は人が住んでいる所なので変 24% |
広い意味では住居以外にも使う 76% |
およそ4分の3は「広い意味では使える」という回答でした。出題者には予想外の結果です。単純に「住所は住む所と書くので住んでない所に言うのは変」という反応の方が多いだろうと思っていたのです。
しかし実は、校閲記者も30年前の毎日新聞のコラムで「JR品川駅の住所」(東京都品川区ではなく港区)と書いていたことがあります。この「住所」は「新聞に見る日本語の大疑問」(東京書籍)という本になったときに「所在地」に直っています。また、サンデー毎日連載の「校閲至極」でも別の筆者による「駅の住所」とした原稿があり、直しました。
無意識か、許容範囲と判断してか分かりませんが、校閲記者でもそう書いているくらいですから違和感を持たない人が増えているのかもしれません。
法律にも「会社の住所」
辞書で「住所」を調べると、多くが「住んでいるところ。生活の本拠である場所。すみか。すまい」(広辞苑7版)という説明にとどめていますが、注釈でそれ以外の使い方を説明するものも出ています。
・一九七〇年ごろから「○○大学の―」のように所在地の意に使う人が現れた。address(=宛先)の訳語の濫用。(岩波国語辞典8版)
・会社などの場合は「所在地」だが、「住所」と言う人もいる。(三省堂国語辞典8版)
・広く、会社などの所在地(の所番地)にもいう。「荷物は会社の―に送ってください」「県庁のーを調べる」(明鏡国語辞典3版)
――と、少なくとも3種確認できます。
読者からのX(ツイッター)の投稿でも
「住所」→「所在地」に修正してもらったことがある。
などという「所在地」派よりも、次の「住所」派の声の方が多かったようです。
・「住所」と言ってしまって問題が起きたことは一度もない。
・土地や建物の所在地を示す一連の言葉で、住んでいるかは関係ない。
・住の字義にはひとところにじっとしている、とどまるという意味があるのでおかしくない。
・会社を「法人」と置き換えれば、「法”人”の居住地、すなわち住所」と考えることもできる。
ちなみに会社法4条には「会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする」とあり、微妙に「所在地」と使い分けられていますが、法律でも「会社の住所」は使われています。
でも乱用は避けたい
ところで、毎日新聞東京本社や大阪本社には郵便物は郵便番号だけで届くので、投稿規定では「住所不要」などと書かれますが、これを「所在地不要」と書くのは逆になんとなく違和感を禁じ得ません。
この場合は「住所を書く欄への記入は不要」ということで、そこに人が住んでいようがいまいが住所としか言いようがないのかもしれません。
いや、「所番地」という言葉があったな――と思って毎日新聞データベースを調べると、「所番地不要」もそれなりに使われていますが、「住所不要」が数の上では圧倒しています。広辞苑で「所番地」を引くと「住所の地名と番地」とあり、これにも「住所」とあります。
「住」の字について、円満字二郎さんの「漢字ときあかし辞典」によると「本来は“ある場所にとどまる”ことを表す」とあります。確かにそうなのでしょうが、現代日本での住所の主要な使い方は「食う寝るところ住むところ」だったはず。
そこに会社の住所が入り込んできたのは、岩波国語辞典が示唆するように、手帳などに付いているaddress欄が要因になったのかもしれません。この「アドレス」には必要があれば個人、法人に関係なく所在地を書くと思います。このイメージの拡大で会社にも使うようになったのかもしれません。
でも、岩波国語辞典が「濫用」(=乱用)と記すように、安易に用いるのは避けたいもの。気になる人は4人に1人くらいはいます。だから「JR目黒駅の住所は目黒区ではなく品川区」などの文言があれば、やはり「住所」を「所在地」にしたほうが安全と思われます。
(2024年05月20日)
ある原稿に「品川駅の住所は東京都品川区ではなく港区」という部分がありました。そうそう、その地名の不一致は要注意。でも「駅の住所」は変だよね、と言い「駅の所在地」に直しました。
しかし、実は毎日新聞の投書欄には、投稿先として(住所は1面題字下)とあります。東京本社には郵便番号だけで届くので(住所不要)と記す欄もあります。これを(所在地不要)にはしにくいかもしれません。
実際に会社に住んでいる人がいるんじゃないかと言われたこともありますが、冗談はともかく、住居以外の会社などについて「住所」という言葉に違和感を持たない人が増えているのかな、とも思いました。いかがでしょう。
(2024年05月06日)