目上の人に送る年賀状に「賀正」などの2文字は不適切とされることがあります。知らずに出してしまったという人もいらっしゃるかもしれませんが、受け取った方も、あまり気にしていないかもしれませんよ。心がこもったメッセージがあれば……。
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マナーでは「目上が使う」とある「賀正」
能登半島地震で被災された方々にお見舞い申し上げます。
今回は「賀正」という年賀状の文言について書くつもりでしたが、「おめでとうございます」とあいさつするのもちゅうちょするほどの大災害になってしまいました。
元日のこの地震で最大震度7を記録したのは石川県志賀町(しかまち)。これを珠洲市(すずし)と誤った原稿がありました。直しましたが、これまでの報道では震源に最も近い珠洲市の惨状が多く取り上げられるせいか、思い込みがあったようです。
志賀町にも「賀」の字が使われていますし、石川県といえば「加賀国」。「賀正」に限らず、「年賀」「賀詞」などいろいろな熟語に使われ、いかにもおめでたい感じの漢字です。
でも「賀正」は年賀状で目上に使うのはよろしくないとされているのをご存じでしたか。
手紙のマナーの本などには
「賀正」「迎春」など2文字の賀詞は、本来は目上の人から目下に使う言葉なので、目上の人には避ける
目上や上位への改まった年賀状では「謹賀新年」「恭賀新年」などの賀詞を選ぶのが丁寧。「賀正」「迎春」は粗略な感じがする
――などと書かれています。
丁寧さが足りない?
その理由としては、「謹賀新年」「恭賀新年」や「謹んで新年の……」などに使われる、へりくだる謙譲語がないことが考えられます。
しかし、「あけましておめでとうございます」は謙譲語がないのに適切な賀詞とされていて、それだけでは「賀正」が不適切な理由にはなりません。
また、新漢和辞典(大修館書店)によると、「賀表」という言葉は「朝廷や国家に祝い事のあるとき、臣下から奉る祝いの文」とあり、賀の字には下から上への使い方もあったことがわかります。
だから賀の字には問題はなく、おそらく2文字だけというのは丁寧さが足りないと思われるというのが最大の理由でしょう。
私も、そういう向きがあると知ってからは「賀正」は基本的に避けています。
それより気をつけるべきは
でも内心では、目下から「賀正」の年賀状をもらって「失礼だ!」と怒る方がどれだけいるんだろうと疑問に思います。もしいたとしたら「心の狭い人だなあ」と感じるでしょうね。
たとえば芋版だと「謹賀新年」と彫るのは大変だし、そうでなくても、印刷が主流になっている昨今、目上かそうでないかでバージョンを分けるのも煩わしそうです(かといって友達に「謹んで」というのもいんぎん無礼な気もするし)。それよりも、心のこもった手書きのメッセージがあれば「賀正」を補って余りあるのではないでしょうか。
お年玉付き年賀はがきの発行枚数は13年連続で下がったそうです。年賀状の習慣が廃れる一方だからこそ、作法に注文をつけるよりは大目に見て、年賀状を出してくれることそのものをありがたく思うほうがよいと個人的には思うのです。
それより、宛名や住所の間違いの方が何十倍も失礼ですよね。地震の記事でも間違えないようにしなければと自戒するこのごろです。【岩佐義樹】