「『国語辞書』と言いますか?」とお聞きしました。
目次
3分の2は「国語辞典」を選んだが…
「国語辞書」と言いますか? |
違和感なく言う 9.5% |
言わない。「国語辞典」と言う 66.5% |
言わない。単に「辞書」と言う 24.1% |
「言わない。『国語辞典』と言う」の回答が3人に2人の割合になりました。質問の動機は、同じ問いを発せられて「普通は国語辞典でしょうね」と答えたものの、果たして「普通」といえるほどの程度なのか確認したかったことがあります。
たぶん「普通」と言って差し支えないことはわかりました。しかしだからといって「国語辞書」という言葉が不適切ということにはならないようです。
「国語辞書」を掲げる本も
例えば毎日新聞データベースで東京本社版に限れば「国語辞書」の出現記事数は60。「国語辞典」だと670件以上なので、10倍以上の件数だけ見れば「国語辞典」の圧勝です。しかし、うち半数くらいは固有書名の一部としての「国語辞典」。それを除いても「国語辞典」が圧倒的ということは動かないのですが、「国語辞書」の記事の筆者は校閲者という例も複数見つかります。
辞書に関する著書の多い元読売新聞記者、石山茂利夫さんは「裏読み深読み国語辞書」「国語辞書事件簿」など著書タイトルも含め「国語辞書」を使っています。前者の本から「字書」「辞書」「辞典」の歴史的な使われ方を記した部分を引用しましょう。
江戸期までは、漢字に関する辞書がほとんどだったから、「字書」「字引」でこと足りた。しかし、国語辞書や外国語の辞書などが多数出現するようになり、漢字の辞書と区別するために、あるいはその意を含めて包括的に「辞書」が使われ出した。それに続いて、ちょっと気どった「辞典」が用いられるようになる。
国語辞典は「国語辞書」を載せているか
では石山さんの「『辞書』を辞書で調べる」にならって、国語辞書で「国語辞書」を調べてみましょう。
すると意外なことが。実は「国語辞書」を立項する辞書は調べた範囲では見当たりません。そればかりか、「国語辞典」を立項しない辞書も少なくないようです。わざわざ国語辞典で「国語辞典って何だ?」と調べる人はいないだろうという判断なのでしょうか。
では立項している辞書は「国語辞典」の項の中で「国語辞書」を同義語として付言しているでしょうか。広辞苑の「国語辞典」の項にはありません。
現代国語例解辞典5版(小学館)には
[こくご-じてん 国語辞典] その国の国語を集めて、その国の言語で説明した辞典。特に、日本語を集めて一定の順序に並べ、その意義、用法などを日本語で説明した書。国語辞書。
とあります。三省堂現代新国語辞典の「国語辞典」の語釈にも「国語辞書」が付いてきます。
ただ「国語辞書」を記す辞書はどうやら少数派のようです。その中で異彩を放つのは大辞林4版。特設ページには「日本の辞書」というコーナーがあり「国語辞書」が何カ所も堂々と使われています。
実際の辞典名としてはどうでしょう。大辞林の「日本の辞書」のページには「主要辞書略年表」が掲げられていますが、「辞書」という名を付けるのは「日葡辞書」(1603~04年)、「日本大辞書」(山田美妙、1892~93年)のみ。書名としても「○○辞書」は不人気のようです。
「国語辞書」を使う山本さんに聞いてみた
しかし、この「毎日ことばplus」に寄せてくださった三省堂の山本康一さんの文章は「国語辞書の『かたち』をめぐって」というタイトルでした。
山本康一さんに聞いてみました。
――「国語辞典」という語がいちばん顕著に使われるのは書名なので、個別の書名としては「辞典」、一方「国語」の「辞書」という類概念を言う場合は「国語辞書」のように、いわば個別の「種」とその上位の「類」を(なんとなく)区別して、それぞれ「国語辞典」「国語辞書」と使い分けています。
大辞林4版で、特別ページに「日本の辞書」をあらたに加える際に、ご執筆の先生と「国語辞典」とするか「国語辞書」とするか検討したのですが、類としては「辞書」、種としては「辞典」で通そう、とした経緯もありました。
また「国語辞典」と言った場合、その指す対象はおそらく冊子体書籍になりますが、「国語辞書」の場合は、電子版も含んで広くなる気がします。実際「電子辞書」とは言いますが、「電子辞典」とは(商品名以外では)言わない気がします。
なるほど。出題者は単に「国語辞書」を掲げる辞書はほとんどないから一般的には「国語辞典」の方がいいと思ったのですが、むしろそれゆえに、辞書一般語としては「国語辞書」とするという判断だってあるわけです。
また、辞書というと一般的に国語辞典というイメージがあり「辞典語辞典」の「辞書」の項もそう記しますが、同じ項で古語辞典、新語辞典、漢和辞典なども辞書のうちに含めています。だから必ずしも「国語辞書」というと意味がダブり気味となるとも限らないようです。
アンケートでは少数派ですが、「国語辞書」もそれなりに根拠ある表記ということが分かりました。だとすると、他ならぬ国語辞典が「国語辞書」という表記をもっと掲げてもいいと思うのですが……。
(2023年10月02日)
「国語辞書」と言いますか? 突然他部の人に聞かれ「普通は『国語辞典』でしょうね」と答えました。今出ている国語辞典で「国語辞書」という書名を掲げているものを思いつかないことも頭にありました。▲後で辞書関係の言葉を集めた「辞典語辞典」(見坊行徳・稲川智樹著)を引くと「国語辞典」の項は当然あっても「国語辞書」は立項されていません。ただ「国語辞典」の項の中に「国語辞書」ともあり、不適切とはいえないようです。毎日新聞でも比較的少数ですがそれなりに使われています。▲しかし「辞典語辞典」の「辞書」の項には「『辞書』は国語辞典を指すことが多い」とあり、となると「国語辞書」では「辞書」の意味が重なるので「辞書」だけでいいのではないかという気にもなります。皆さんはどうお考えでしょう。
(2023年09月18日)