「微妙なところなんだけど……」と前置きされ、職場の先輩からある一文を示された。そこには「若い世代を照準にした勧誘マニュアル」との記述が。先輩の言うには「辞書には『照準する』という用例はあるんだけど、この場合はちょっと違うのでは」。どうやら「に」という字が入ったことで本来の用法と違ってしまっているのでは?ということらしい。
「まずい、まったく疑問に思わなかった……」と内心落ち込みつつ「では『照準を当てる』でしょうか」と聞くと、それもだめと言われてしまった。実は毎日新聞用語集には「誤りやすい表現・慣用語句」というページがあり、そこに「照準を当てる→照準を合わせる」と書き換えるように指示されている。いままで、まんまと誤りに陥っていたのだ。校閲生活2年目も終わろうというのに、なんとも情けない気持ちになった。
出稿部デスクに相談すると「(銃で)バキューンと(当てると)いうイメージなんだけどね」とのこと。お気持ちわかります。字数の関係で「照準を合わせた」にすると2文字はみ出てしまう、でもイメージに合ううまい言い換えは? しばらくして戻ってきたモニター(原稿)には、「対象にした」という直しが入っていた。
そもそも照準という言葉の意味は「鉄砲のねらいをつけること。一般に、ねらいを定めること」(広辞苑第6版)。目標を「ねらい」はしても、「当てる」のは弾そのもの。だから「照準を当てる」には違和感があるということだ。
過去記事の使用例は少ないが「照準を絞る」ならどうだろう。絞るとは、拡散したものを小さくまとめるということだ。広いねらいを狭くする、つまり「ねらいを定める=安定させる」ことなので使ってもよさそうだ。念のため辞書を繰ると、私が調べた限りほかでは記載されていなかったが、三省堂国語辞典第7版には「(照準)をしぼる」という用例が載っていた。
なぜ私は「照準を当てる」などと間違えたのだろう、「誤りやすい表現」にも含まれているし……。勝手な推論をこころみるうちに、「照準を当てる」は「焦点を当てる(=議論の対象にするの意)」に音もイメージも近いことに思い当たった。他にもイメージで誤って覚えているややこしい言葉がありそうで怖いが、そんな日本語とこれからもっと関わっていけるのだと思ったらうれしくなった。まずは3年目のスタートを前に「誤りやすい表現・慣用語句」から復習しようと、用語集を手に取った。
【斎藤美紅】