「普段づかい」という言葉の表記について伺いました。
目次
「使い」が7割占める
このバッグは「普段づかい」にいい――カギカッコの中、どの表記がなじみますか? |
普段使い 72.1% |
普段遣い 7.7% |
普段づかい 20.2% |
日常的な使用について使われる「普段づかい」という言葉をどう表記するかは、「普段使い」とした人が7割に達し最多でした。「普段遣い」とした人は1割に満たず。名詞の形であっても、この場合は「使」で表記するのが普通のようです。
名詞では「○○遣い」が多いが
毎日新聞の用語のルールブックは「つかう」の使い分けについて、以下のように説明します。
つかう
使〔一般用語。主として動詞形〕上目を使う、追い使う、お使いに行く、金の使い捨て、漢字を使ってもよい、気を使う、現地の言葉を使う、心を使う、子供の使い、声色を使う、大金を使う、使い込み、使い手、使い道、使い分け、道路建設に使う予算、人形を使う〈人形浄瑠璃では「人形を遣う」〉、人使いが荒い
遣〔限定用語。主として名詞形〕息遣い、色遣い、上目遣い、仮名遣い、金遣い、気遣い、気遣う、心遣い、小遣い銭、言葉遣い、人形遣い、筆遣い、無駄遣
い、文字遣い、両刀遣い
[注] 「剣術使い」「忍術使い」「魔法使い」「猛獣使い」などは慣用として「使」
原則としては「遣う」は名詞で「~遣い」として使うことが多く、「使う」は一部の慣用を除いてはあまり「~使い」とはならない、と言っているようです。この記述に沿うと、「普段づかい」も「~遣い」になりそうに思えます。
辞書の記載は「使い」
国語辞典も意外に、この言い回し「普段づかい」を載せています。「かしこまった席ではなく、日常の生活で使用すること」(大辞泉2版)などと説明されます。手近な辞書の表記を見ると、
・不断使い(大辞泉2版)
・普段使い(新明解国語辞典8版、三省堂国語辞典8版、明鏡国語辞典3版)
・上記の両方(広辞苑7版、大辞林4版)
辞書では「ふだん」の項目で「不断」「普段」をまとめて説明していることが多く、「ふだんづかい」はその子項目ということもあるため、「不断使い」「普段使い」の両方が出ているものもあります。もっとも「づかい」の部分はいずれも「使い」。「~遣い」としている辞書は見かけませんでした。明鏡3版が「かな書きも多い」としているのが目立つ程度です。
「普段使い」が妥当
文化審議会国語分科会の報告「『異字同訓』の漢字の使い分け例」(2014年)は、「つかう」の項目で用例を挙げた後に、以下のように注釈しています。
現在の表記実態としては,「使う」が広く用いられる関係で、「遣う」を動詞の形で用いることは少なく、「○○遣い」と名詞の形で用いることがほとんどである。特に、心の働き、技や金銭などに関わる「○○づかい」の場合に「遣」を当てることが多い。
「遣う」は派遣の「つかわす」という意味を持つ文字で、「金遣い」「気遣い」のように、つかう対象が方向性を持ってどこかへ向かう、ベクトルのある場合によりなじみやすいようです。それに対して「人使いが荒い」のように、日ごろの振る舞い方のような場合には「使い」の方がなじむように見えます。「普段づかい」も日常のあり方に関わる語で、何らかの対象に向かう言い回しではないということから、「使い」がなじむように考えられます。
今回のアンケートの結果で「普段使い」を選んだ人が「~遣い」に比べて圧倒的に多かったことから見ても、「普段づかい」の漢字表記は「使い」が妥当であると言えそうです。
(2023年05月25日)
「使う」と「遣う」の使い分けについて、毎日新聞用語集は「使う」を一般用語として主に動詞形で使うとする一方で、「遣う」については「限定用語。主として名詞形」としています。名詞形とは、要するに「遣」で書く場合は「遣い」という形になるということです。▲動詞形で「仮名を使う、金を使う、気を使う」と書くものも、名詞形にすると「仮名遣い、金遣い、気遣い」になります。この伝でいくと「普段づかい」も「遣い」になりそうですが、そうとも言い切れません。国語辞典で「ふだんづかい」を採録しているものを見ると、漢字表記は「~使い」ばかりです。▲「普段づかい」は「普段をつかう」わけではないという点で、仮名遣いや金遣いとは言葉のつくりが少し違うようにも見えます。「日常的に使用すること」(明鏡国語辞典3版)として、何かを使うというよりは「使うこと」に重点を置いた言葉なので、「普段使い」となるのかもしれません。もっとも「無駄遣い」のような書き方もありますし、なんとも言い切れないところはありますが……皆さんはどの書き方がなじむでしょうか。
(2023年05月01日)