「やめる」の表記について伺いました。
目次
かな書きが6割占める
農家を「やめる」人が相次いだ――カギカッコの中、どう書きますか? |
止める 13.3% |
辞める 27.3% |
やめる 59.3% |
農家のように、勤め人ではない職業を離れる場合にどう書くかは、かな書きの「やめる」が最多で6割を占めました。勤め先を去る場合には「辞める」を使うのが一般的ですが、これは「辞」の持つ「ことば」という意味から派生した用法です。かな書きならより多くの場面で使うことができます。
「辞職」なら「辞める」に
「やめる」にも幾つかの書き方がありますが、新聞で使用する表記は「辞める」と「やめる」に絞られます。「已める」は「已」が常用漢字表に入っていない表外字のため使用しません。「罷める」「止める」はいずれも読み方が認められていない表外訓なので、やはり使用しません。
毎日新聞用語集は「やめる」の表記の使い分けについて、以下のように案内しています。
やめる
辞←(罷)〔地位・職などを退く〕会社を辞める、(勤めていた)学校を辞める、議員を辞める、社長を辞める
やめる←(止、已)〔終わりにする、中止する、廃止する〕行くのをやめる、開発をやめる、(通学していた)学校をやめる、固定相場制をやめる、酒・たばこをやめる、商売をやめる
要するに「辞職」や「辞任」という表現がぴったりはまる場合には「辞める」を使うのがよいが、それ以外の場合はかな書きの「やめる」を使うということです。
「辞」は職場への「いいわけ」とも
「辞」の元の意味は「辞書」などに見られるように「ことば」です。そこから派生して「ことわる。いいわけをする。いいわけをのべて、受けとらない。また、職をやめる」(学研新漢和大字典)という意味も持つとのこと。なるほど、職を去るに当たっては勤め先への弁明が必要ということですね。「いいわけ」というのはこの字書のユニークな表現ですが、職場を去る意思を所属先に伝えることを含むのが「辞める」だと考えてよさそうです。
一方で、例えば自営業の場合には、職場に対して辞去の言葉を述べる必要はありません。毎日新聞用語集には「商売をやめる」という用例が出ています。今回の質問文のような「農家をやめる」という場合も同様に扱ってよいと考えます。
迷うときにも使えるかな書き
円満字二郎さんは「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)の「やめる」の項目で、「辞める」について「《辞》は、勤め先に対して“きちんとことばで自分の意志を告げて、仕事から退く”という意味にもなる」とする一方で、下のようにも述べています。
「学生を辞めてミュージシャンになる」「開業医を辞めて引退する」では、学生や開業医は“勤め”ではないが、“地位”の一種だから、《辞》を使っておいて問題はなかろう。気になるようであれば、かな書きにすることをおすすめする。
毎日新聞用語集の基準では「学生」も「開業医」も「やめる」とかな書きにすることになりますが、「辞」の方が、職や立場を降りることについて、特別の意味を持たせられるという考え方のようです。今回のアンケートで3割近くが「辞める」を選んだのも、こうした理由によるのかもしれません。もっとも、同時にかな書きも推奨されており、使い分けに迷う場合にもかな書きが好ましいということは間違いないと言えそうです。
今回のアンケートの結果は、かな書きを選んだ人が最も多くなりました。出題者の立場も同様ですが、もちろん「辞める」を使う場面もあり得ます。例えば「会社を辞めたのを機に、もうサラリーマンはやめることにした」といった書き分けは有効ではないかと思います。
(2023年03月16日)
「やめる」を漢字で書く場合には、「止める」「辞める」などの表記が使われます。もっとも、常用漢字表で「やめる」という訓読みが認められるのは「辞める」だけなので、新聞で漢字を使うのは「辞める」のみ。ほかは「やめる」となります。▲毎日新聞用語集では「辞める」に「地位・職などを退く」という説明を当て、「やめる」は「終わりにする、中止する、廃止する」と説明しています。使い分けとしては、例えば「学校をやめる」ならば「(勤めていた)学校を辞める」「(通学していた)学校をやめる」のようになります。▲さて、農家は職業で「辞」が合うと感じる人が結構いそうに思います。しかし一方で、用語集は「商売をやめる」という例を挙げています。「辞」の字義は言葉を述べることで、仕事をやめる場合も「勤め先に対して“きちんとことばで自分の意志を告げて、仕事から退く”という意味」(円満字二郎「漢字の使い分けときあかし辞典」)。ですから、勤め人以外の場合には「やめる」の方がなじむのではないでしょうか。皆さんはどう使うでしょうか。
(2023年02月27日)