良くない事柄の数量について「最高」を使うことについて伺いました。
目次
「気になる」人が7割占める
被害件数は「過去最高」を記録した――気になりますか? |
気にならない 17.7% |
「最高」だけなら気になるが、「過去」がついているので許容できる 10.6% |
気になる。「過去最多」としたい 71.7% |
良くない事柄の数量について「過去最高」という表現を使うことには、7割超が「気になる」として「過去最多」への言い換えをよしとしました。出題者も同様に考えるので安心しましたが、全ての場合にこうした言い換えが必要というわけでもないかもしれません。
「最高=すぐれている」という含意
出題者が原稿中で目にした例は「いじめの認知件数は……減少した前年度から一転して過去最高になった」というものでした。最高記録などと言いますから、数量的にそれまでで一番となる場合には「過去最高」という言葉が使われるのも不自然とは言い切れません。
ただし「最高」は「いちばん〈高い/すぐれている〉こと」(三省堂国語辞典8版)と説明されるように、単に高さを示すだけではなく、性質が「すぐれている」というニュアンスもあります。いじめの件数の場合に、そうした含意がにじんでは困るため、ここは「過去最多」としました。「最多」ならば単に「最も多いこと」(大辞泉2版)を意味するにとどまり、中立的な表現と言えます。
金額の場合は「過去最高」も
一方で、これが「金額」の話になると、少し事情が変わります。「水害被害額は初めて2兆円を超え、過去最高となった」――このような文を見てもあまり違和感はないのではないでしょうか。金額の場合は「高額/低額」と数量を高低で表す意識が強いため、「最高」の価値判断的な意味合いが気にならなくなるのでしょう。
言葉は単独で使うものではなく、他の言葉と結びつけながら使い、また理解するものです。今回の質問でも「『最高』だけなら気になるが、『過去』がついているので許容できる」という選択肢を選んだ人が1割程度ありました。過去と比べて、というのが明示されるならば数量的な意味に取りやすいという受け止め方でしょう。
良くないことには中立的な表現を
とはいえここでは、アンケートで7割の人が、被害件数のようなものについて「過去最高」という表現を結びつけるのはなじまない、としたことを重視したいと思います。良くない事柄については中立的な表現を用いるよう、気をつけたいところです。
(2022年11月24日)
先ごろ読んだ原稿の中に「いじめの認知件数が過去最高になった」というくだりを見かけ、「~過去最多になった」とする直しを入れました。ここで問題になっているのは「件数」なので、「多い」がよりなじむというのが一つの理由ではありますが、気にしたのは「最高」が価値判断を含む言葉でもあることです。▲国語辞典は「最高」の項目で「いちばん〈高い/すぐれている〉こと」(三省堂国語辞典8班)のように説明します。「最高」には、単に程度や数値などが一番高いというだけでなく、「すぐれている」という良いニュアンスを帯びがちなのです。▲とはいえ、校閲記者でも皆が必ず直すといった表現ではないかもしれません。また単に「最高」というのではなく「過去最高」なら、棒グラフのようなイメージがわいて価値判断の含意が薄れるということもあるのかも。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2022年11月07日)