過日、御嶽山噴火の報道が紙面を埋めた。「おんたけさん」と読むこの山、「嶽」は「岳」の旧字だ。紙面では通常、旧字は新字に直して使用することになっている。そのため初報では「御岳山」とする社もあった。いまでは「御嶽山」が一般的ということで各社とも旧字を使用している。
さて後日、毎日新聞地域面・東京版に「武蔵御嶽神社 義援金募る」とする記事が載った。これは東京都青梅市にある御岳山(みたけさん)を噴火した御嶽山と勘違いし、問い合わせが多数寄せられたことから義援金を受け付けることにしたというものだ。恥ずかしながらこの記事を目にするまで、東京に御岳山があることも知らなかった。固有名詞としてどちらの字が一般的かを考えると同時に、字を直すことで勘違いが生まれないかも考えねばと勉強した一件だった。
この旧字というのは、広義に「異体字」に含まれることもある。異体字とは、意味も発音も同じだが字体(文字の骨組み)が異なる漢字のことだ。ただ、毎日新聞用語集では主に旧字以外の「俗字」と言われる字体を指すことにしている。例えば最近世間を騒がせている小渕優子・前経済産業相の「渕」の字は「淵」の異体字である。
「新字」と「旧字」、さらに「異体字」という概念、入社するまではほとんど気にしたこともなかった。事実、社員証を配られたときに名字の齋藤が「斎藤」となっており、人事担当者に鼻息もあらく「字が違います!」と詰め寄った筆者である。ご存じの方も多いだろうが、「齋」の新字は「斎」なのだ。さらにこれまで略字としては「斉(齊の新字)」を使っていたものだから、「齋・斎」とは別字と知って衝撃だった。なお、用語集には「『斉』と『斎』は別の字で、字体の違いではないので区別して使う」と書かれている。また、「固有名詞に限る『運用上の例外』として、異体字(俗字)という意識が薄れ、別の字のように扱われている字については使い分けを認める」ともある。旧字の「嶽」も、この例外に該当しそうだ。
異体字は結構頻繁に登場するのだが、本などでもよく目にするので惑わされがちだ。度々赤を入れるのが「葛」の字。東京の葛西臨海公園には2010年の常用漢字表にある漢字と俗字とが隣り合わせになった2枚の看板があるが、勹の中の部品が違う。左の画像では「葛」の右側が常用漢字だ。それから小樽の「樽」は上がソになっているのをハになおして……。楢葉の「楢」も上がハだし、「猶」もハにするのかな、と思うとこれは常用漢字表内の字体でOKだったりするのだ。
この見分けがどうにも苦手で、さらっと読んでしまってはデスクやキャップから直しが入る。ああまた見逃してしまった……と落ち込むが、失敗も経験のうち。漢字だけに閑事とおもうべからず、といったところか。
【斎藤美紅】