毎日新聞東京本社の校閲グループは、月1回「ヨーコン」というものに数人が出席しています。仕事中は竹橋のビルの同じフロアから外に出ないのが日常の我々ですが、珍しく電車に乗って別の場所へ行き、他社の人たちと一室に集まります。
ヨーコン(用懇)の正式名は、「新聞用語懇談会関東地区幹事会」。全国の新聞社・通信社・放送局が会員となっている「日本新聞協会」の編集委員会の下におかれています。月1回、千代田区内のビルの会議室に各社の担当者数十人が集って、統一の用語ルールを定めた「新聞用語集」の改訂について議論するほか、各社で起きた用語に関する問題の報告が行われます。
2015年現在の用懇のテーマは「異字同訓漢字の使い分け」。昨年2月に文化庁文化審議会が公表した「『異字同訓』の漢字の使い分け例」を参照しながら、現在の「新聞用語集」にある異字同訓の使い分けの記述をどう変更すべきか検討しています。
先日の会議では、「かたい」の表記が議題になりました。ある社から「食べ物の『かたさ』はどの漢字を使うべきかという問い合わせを記者からよく受ける。『新聞用語集』に例を追加できないか」と問題提起がありました。たしかに現在の記述では、「堅い材木」「硬い文章」などの例はありますが、食べ物の用例はありません。「おいしい、まずいといったとらえ方で選ぶべき漢字も変わってくるので、『食べ物についていうかたいはこちらの字』と決めるのは難しい」という意見が出され、よく出てくる例の一つとして「硬い飯」を次の版の「新聞用語集」に追加する方向で検討することになりました。
用懇での議論や新聞用語集の記述をもとに、新聞・放送各社は用語ルール(毎日新聞社では「毎日新聞用語集」がこれにあたります)を改定します。つまり、新聞社はそれぞれ好き勝手に用語ルールを決めているわけではなく、「国の審議会など→新聞協会の用語懇談会→各新聞社」という流れがあるわけです。2010年に文化審議会が答申した常用漢字表改定の際にも、新聞協会で追加、削除すべき漢字について検討した上で、各社で使用漢字を決めました。
こういうと、新聞社の用語ルールは元はといえば国が決めているのかと思われるかもしれませんが、そうではありません。文化審議会の「使い分け例」を決める会合には用懇のメンバーが参加しました。また、常用漢字表の作成にも新聞社の用語担当者がかかわっています。メディアの現場を知る人間の見解を取り入れることで、国の主導する日本語ルール作成がより地に足のついたものになります。また、各社が一定のルールを前提とすることで、各メディアの表記がずれ過ぎて読者や視聴者が無用に混乱するような事態を防いでいるのです。
さて、先月下旬には用懇の全国版である「用語懇談会春季合同総会」が札幌市で開かれました。関東地区に加えて関西、西部地区の43社・85人が一堂に会し、各地区での議論の報告が行われました。関西地区からは「きめ細やか」「盛り下がる」といった一般的でない表現について現場がどう対応しているかについてのアンケート結果も報告されました。こうした話し合いを通じ、新聞の日本語は鍛えられています。
【田村剛】