読めますか? テーマは〈金属〉です。
目次
鈕
ちゅう
(正解率 35%)つまみのこと。先日福岡県で発見された国内最古とみられる青銅鏡鋳型は、ひもを通すつまみが複数ある「多鈕鏡(たちゅうきょう)」の鋳型とされる。また兵庫県で発見された銅鐸(どうたく)の記事でもこの字は出てきて「つり手」と説明されていた。
(2015年06月15日)
選択肢と回答割合
かんな | 52% |
ちゅう | 35% |
ひも | 13% |
金打
きんちょう
(正解率 46%)「かねうち」とも読む。固い約束のしるしとして互いの金属を打ち合わせた江戸時代の習慣。武士は刀、女性は鏡などを使った。「打」を「ちょう」と読ませる語には他に「打擲」(ちょうちゃく=人を殴ること)がある。
(2015年06月16日)
選択肢と回答割合
きんだ | 17% |
きんちょう | 46% |
こんだ | 37% |
鋳造
ちゅうぞう
(正解率 88%)溶かした金属を鋳型に流し込んで成型すること。世界文化遺産登録が勧告された「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つ「韮山反射炉」は大砲を鋳造するためのものだった。
(2015年06月17日)
選択肢と回答割合
いぞう | 11% |
じゅぞう | 0% |
ちゅうぞう | 88% |
作鍬
さくぐわ
(正解率 16%)耕すためのくわ。1912(大正元)年の尋常小学唱歌「村の鍛冶屋」の3番の歌詞は「刀はうたねど 大鎌小鎌 馬鍬(まぐわ)に作鍬 鋤(すき)よ鉈(なた)よ 平和のうち物 休まずうちて 日ごとに戦う 懶惰(らんだ)の敵と」。
(2015年06月18日)
選択肢と回答割合
さくぐわ | 16% |
さくしゅう | 35% |
さぐわ | 49% |
金槌
かなづち
(正解率 95%)「鉄鎚」とも書く。トンカチのこと。太宰治の「トカトントン」では敗戦直後の心理が描かれる。「何か物事に感激し、奮い立とうとすると、どこからとも無く、幽(かす)かに、トカトントンとあの金槌の音が聞えて来て、とたんに私は(中略)何ともはかない、ばからしい気持になるのです」。きょうは太宰治の忌日「桜桃忌」。
(2015年06月19日)
選択肢と回答割合
かなづち | 95% |
きんつい | 4% |
きんづち | 2% |
◇結果とテーマの解説
(2015年06月28日)
この週は「金属」。太古から終戦直後までの金属に関する歴史をたどるような漢字の連なりになりました。そしてそれらは「戦争と平和」の歴史でもあります。
まずは相次いで発見された銅鐸と銅鏡のニュースに共通する漢字「鈕」を選びました。難読ではありますが、紐(ひも)とつくりが同じで、その音読みが「チュウ」とわかった人なら、ニュースを覚えていなくても正解できたのではないでしょうか。紐の音読みを使った熟語には、「絆」と似た意味で使われる「紐帯(ちゅうたい)」があります。
「金打」もかなりの難読で、正解率も半数に満たなかったのですが、予想よりは読めている印象です。この誓約のしるしは江戸時代に生まれた風習だそうで、時代小説のファンにはよく知られた言葉と思います。それはともかく、武士の刀が人を切るためではなくこういう用途に使われたというのは、江戸時代が平和だったことを示すあかしの一つかもしれません。
by ja:User:Ans |
「鋳造」は常用漢字で使用頻度もあるだけに正解率は高くなりました。解説で、世界文化遺産登録が確実視される「明治日本の産業革命遺産」の一つ、韮山反射炉が大砲を鋳造していたことに触れました。黒船来襲により天下太平の世が覆って刀よりもっと破壊力のある武器が必要とされたことは、金属の歴史の一つの転換点といえるでしょう。
そして1904~05年の日露戦争で辛勝した後の12(大正元)年に唱歌「村の鍛冶屋」が登場します。出題時にも引用しましたが、3番の歌詞に「作鍬」が出てきます。
刀はうたねど 大鎌小鎌
馬鍬(まぐわ)に作鍬 鋤(すき)よ鉈(なた)よ
平和のうち物 休まずうちて
日ごとに戦う 懶惰(らんだ)の敵と
「平和」という言葉があることにご注目。作詞者は不詳なので想像を許していただくと、日露戦争でさんざん悲惨さを体験した人が、大正元年という新しい時代を迎え、日常の仕事に打ち込める平和のありがたさを歌にこめたのかもしれません。しかしその平和もつかの間、日本は再び戦争の地獄へと突き進んでいきました。
ちなみに「大人のための教科書の歌」(川崎洋著、いそっぷ社)によると「昭和26年からずっと四年生の教科書に登場していたが、60年を最後に掲載されなくなった」。鍛冶屋さんが身近にいなくなり、「作鍬」なども死語になったのでやむをえないことかもしれませんが、この歌詞はもっと歌い継がれてほしいと思います。
「金槌」は簡単すぎるかと思っていましたが、やはりという結果。これを選んだのは6月19日の桜桃忌と金属のテーマを結びつけたくて。太宰治「トカトントン」で主人公が敗戦の日、自殺しようとしているときに聞こえてきた、金槌の音。
あの、遠くから聞えて来た幽かな、金槌の音が、不思議なくらい綺麗(きれい)に私からミリタリズムの幻影を剝ぎとってくれて、もう再び、あの悲壮らしい厳粛らしい悪夢に酔わされるなんて事は絶対に無くなったようです
それ以降なにかに熱中しようとすると幻聴のトカトントンに襲われ、やる気を奪われます。
この頃では、あのトカトントンが、いよいよ頻繁に聞え、新聞をひろげて、新憲法を一条一条熟読しようとすると、トカトントン、局の人事に就いて伯父から相談を掛けられ、名案がふっと胸に浮んでも、トカトントン、あなたの小説を読もうとしても、トカトントン(中略)、もう気が狂ってしまっているのではなかろうかと思って、これもトカトントン、自殺を考え、トカトントン
愉快なんだか、せつないんだか、なんともいえない太宰節。「再建のつち音」「復興のつち音」などとよくいいますが、その時流に乗りきれない気分の象徴がトカトントン?――などという分析はできるでしょうが、そういう読み方を突き抜けたところにこそ、この小説の魅力があると思います。
最後に校閲らしい情報です。東日本大震災の記事で出てきた間違いの一つに、岩手県の「大槌町小槌」という地名があります。この「小槌」は「小鎚」の誤りです。「おおつち」は「きへん」なのに「こづち」は「かねへん」(関連記事:見逃しそうになった「大槌」と「小鎚」)。とても紛らわしいので要注意です。