「口腔」を「こうこう」と読むことについてどう感じるか伺いました。
目次
4分の3は「こうこう」に違和感
口の中を意味する「口腔」。「こうこう」という読み仮名があったらどう感じますか? |
「こうくう」が正しいはずで、違和感が強い 27% |
「こうくう」の読み方になじんでいるので、違和感がある 49.5% |
「こうこう」が正しいので、問題ない 23.5% |
「口腔」という言葉に「こうこう」と読み仮名(ルビ)が振られていた場合に、違和感があるとした人が4分の3を占めました。なおかつ、「こうこう」が正しいとした人よりも、「こうくう」が正しいと考える人の方が若干ながら多くなり、「こうくう」が主流の読み方になっていることを印象づけました。
辞書は「こう」、あえて使われる「くう」
漢和辞典にある「腔」の音読みは「こう(かう)」です。辞書によっては慣用として「くう」も挙げていますが、あくまで慣用という扱いです。音を表す字の要素は「空(くう)」ですが、「控訴」や「控除」の「控」も「こう」と読むことを考えれば、「こう」という音読みは不自然ではありません。
「腔」を「くう」と読むことについては、部首の読みに基づいた勝手な読み方とされることが多いのですが、今回の記事を書くに当たってインターネット上で見つかる情報を確認していると、そうとも言い切れないようです(吉田秀夫さんのサイト、西嶋佑太郎さん「ゆれる『腔』の読み」を主に参照)。
「腔」という文字自体が、西洋医学を移入する際に体内の空洞を表す文字として流用されたもので、過去には「口空」のような表記も見られることから「くう」と読むのが自然であった、との考え方にはなるほどと思いました。また一方で、医療の現場で「口」や「孔」のような「こう」と読む漢字が多いため、紛らわしさを避けるためにあえて「くう」と読むとした経緯もあるとのことで、単純に読み間違いが定着したと考えるのは的を射ていないようです。
動物関係は「こうこう」が定着
医療関係の専門用語としての読み方は「こうくう」で決着していると言ってよさそうです。日本新聞協会の「新聞用語集」も、「放送で標準とする読み方例」の欄で、「口腔 ○コークー〔医学〕 ○コーコー〔一般〕」としており、各社の用語集も医療用語としては「こうくう」を採用しています。問題は、「一般」とされる読み方がどこで使われるかということです。
2022年に出た共同通信の記者ハンドブック14版は、「こうこう」の項目で「口腔(こうこう)〔動物関係。医学用語は口腔(こうくう)〕」としています。岩波書店の「生物学辞典」でも「口腔」は「コウコウ」になっており、動物関係での読み習わしは「こうこう」のようです。毎日新聞の過去記事を見ても、用例の大半である医療関係の記事では「こうくう」のルビが振られている一方で、「パンダの口腔内の検査」のような場合には「こうこう」となっており、使い分けは明確に意識されているようです。
使う場面で読み方の変わる言葉
現状では「腔」の読み方について、「くう」は正しくない、「こう」が正しい、とする議論にはあまり意味が無さそう感じます。使い分けについては、例えば「補綴」という言葉が、歯科医療関係では「ほてつ」、文学作品などに手を入れることについては「ほてい」と読まれるように、「口腔」も二つの読み方を場面によって使い分ける語と考えるのがよさそうです。
もっとも、アンケートの結果は、現状では「こうくう」という読み方になじんでいる人が多いことを示しています。実際の使用頻度を見ても、医療関係以外で「口腔」が使われることは多くありません。「こうこう」という読み方が決して不適切なものでないということは押さえておいてほしいと思いますが、このまま「こうくう」が主流の読み方になっていくことは不可避であろうと感じました。
(2022年10月13日)
「腔」は常用漢字表に入っていない漢字(表外字)ですが、「口腔ケア」「口腔外科」といった形で新聞にもしばしば登場します。その場合、表外字なので読み仮名(ルビ)を振らなければならないのですが、これが校閲記者の悩みの種にもなっています。▲毎日新聞用語集は「こうこう」の項目で「口腔→口腔(こうこう)」とし、まず「こうこう」とルビを振るとした上で、「[注] 医学関係では口腔(こうくう)、鼻腔(びくう)、腹腔(ふくくう)」と注記します。一つの語に二つの読み方を認める格好です。▲しかし「口腔外科」のような言葉が代表的な用例であることから見ても分かるように、「口腔」は医学関係の話題でよく使われる言葉です。結果として、紙面でも「こうくう」とルビをつけることが多いため、一般語として「こうこう」とした方がよいような場合でも、「こうくう」にしてほしいと筆者に頼まれることがあります。このままだと「こうこう」の読み方は駆逐されてしまうかも……皆さんはどう感じるでしょうか。
(2022年09月26日)