(常用漢字表より、記号は出題者付加)
「令」という文字の形についてどう感じるか伺いました。
目次
大きな差は付かず
新元号に入る「令」。字の形、気になりますか? |
気になる。(A)を使いたい 31.5% |
気になる。(B)を使いたい 40.7% |
気にならない 27.7% |
印刷文字の明朝体やゴシック体で見られる(A)の形より、下の部分が「マ」の形になっている(B)を使いたいという人がやや優勢でした。しかし「気にならない」という人も一定数おり、あまり差は付かなかったと言えます。この字形については新元号「令和」の発表以降、テレビなどでも随分扱われ、同じ文字の異なる書き方だということはだいぶ浸透したのではないかと思います。
印刷字形と手書き文字の差
上で「明朝体」や「ゴシック体」と書きました。明朝体は私たちが印刷物で最もよく目にする基本的な書体です。横線が細く縦線が太い、筆を止める場所に三角形の「うろこ」があるなどの特徴があります。明朝体といってもデザインした人や会社によって微妙な差はありますが、普通の文芸書や新聞は基本的に明朝体で印刷されています。
ゴシック体は、同じ太さの線でできている書体で、筆押さえのような飾りがありません。印刷物でも使われますが、特にパソコンやスマートフォンなど電子機器の日本語表示はゴシック体が普通です。書体はWindowsならばメイリオ、Macならヒラギノ角ゴが普通でしょうか。スマホはメーカーによって異なるようです。
これらの書体は印刷文字として発展してきた歴史を持ちます。かつての版木は木を彫って作りましたし、活字も元になる種字は手で彫ったものです。そのため点画は単純化され、文字は四角くなる傾向があります。「令」は明朝体でもゴシック体でも、「人」の下の点画が横棒になり、手書きでは「マ」となる部分の2画目が縦線になるのが一般的のようです。1820年から1946年の明朝体の字形をまとめた、文化庁国語課の「明朝体活字字形一覧」(1999年)を見ても、すべて(A)と同じように点画は横棒、縦線になっています=下の写真。
ただし、印刷文字でも「教科書体」という字体では(B)のように、下が「マ」の字形が使われています。文部科学省の学習指導要領の別表「学年別漢字配当表」に挙げられている文字に準じた字体で、手書きの楷書を意識した形になっています。
字形が違っても同じ文字
文化審議会国語分科会の報告「常用漢字表の字体・字形に関する指針」(2016年)は、実務上の観点から、常用漢字表に例示された明朝体の字形と手書き文字との差異について説明しています。要するに役所での名前の受け付けなどで問題になりがちだということです。「令」については下の画像のような字形の例を挙げています。
「指針」には「窓口等で(B)のように手書きすると、明朝体の字形との差異から別の漢字であると判断され、印刷文字と同じ形に書き直すよう求められるといった事例が報告された」とあります。融通の利かないお役所仕事だなあ、と感じるでしょうか。しかし、名前の字の形はなかなか厄介なもので、異体字だと受け付けられないこともあるため、現場が神経質になっていると取った方がよいかもしれません。
「指針」のQ&Aには「印刷文字のとおりに手書きしないといけないのか」という項目も。回答は「同じ漢字であっても、手書きの文字と印刷文字との間には、形の違いが現れることがあります。本来は、手書きの文字を印刷文字の字形のとおりに書く必要はありません」と言います。
このようなことをあえて言わねばならなくなったのは、最近はワープロや情報機器が普及して、印刷字形の方が手書き文字よりもなじみ深くなったことが背景にあるのでしょう。そこから離れた形の文字を見ると「間違いではないか」と不安を持つ人が増えてきているようです。
今回の質問に答えてくださった人の中でも、(B)を選んだのは手書きに慣れている人が多いかもしれません。もっとも(A)が印刷文字に近い形だからといって、それを選んだ人が手書きに慣れていないとは必ずしも言えません。書道でも隷書では(A)のように書く場合があり、書き方はさまざまと言うべきでしょう。どちらも誤りではない以上、好みの字形を使うのが一番であろうと思います。
(2019年04月23日)
「令和(れいわ)」。言わずもがなですが4月1日に発表された新元号で、5月1日に施行されます。
官房長官の発表が予定の時刻からずれこんだせいもあって、常になくバタバタした1日の夕刊終了後、支局から校閲センターに相談の電話がかかってきました。「発表された新元号の『令』の字って、下が『マ』の字と同じ字なの?」
同じ字です。
と言って終わりになるところなのですが、もしかすると違う字だと思っている人もいるのかも。少なくとも、異体字の関係と思っている人はいるかもしれません。問いで示した画像の(A)と(B)は異体字ではなく、手書き文字における字形のバリエーションと考えられます。常用漢字表(2010年)では「明朝体の字形と筆写の楷書の字形との間には、いろいろな点で違いがある。それらは、印刷文字と手書き文字におけるそれぞれの習慣の相違に基づく表現の差と見るべきものである」としています。
ともあれ、同じ文字であることを大前提としつつ、それでもやっぱり気になるものか、皆さんに伺ってみたくなりました。いかがでしょうか。
(2019年04月04日)