「きたる」○日、という場合に漢字を使うとどう書くか伺いました。
目次
「来たる」が6割超す
「きたる」9月30日にイベントを開催します――カギの中、どう書きますか? |
来る 36.2% |
来たる 63.8% |
これからやってくる日にちを指す「きたる」を漢字交じりでどう書くかは、「た」も送り仮名として表記する「来たる」が3分の2近くを占めました。元は「来る」と書かれることが多かったものですが、同じ表記の「くる」との紛らわしさが嫌われているようです。
動詞と連体詞がある「きたる」
常用漢字表は「来」の訓読みとして「くる(来る)」「きたる(来る○日)」「きたす(来す)」を載せています。これに従えば、今回の質問で挙げた例は「来る9月30日」と表記するのが“正解”ということになりますが、そう割り切ってよいものでしょうか。
手近な辞書を見てみると、「きたる」は二つの項目に分けて説明されています。一つは動詞として「やって来る。くる」(大辞泉2版)の意。もう一つは連体詞として「月日や行事などを表す語の上に付いて、近いうちにくる、この次の、の意を表す」(同)とのこと(ちなみに大辞泉の表記は、いずれも「来る」)。この区別については、辞書によっては動詞の項目の中で連体詞的な用法があると説明するもの(岩波国語辞典8版)もありますが、分けて記載している辞書が大半です。
さて、動詞は主に動作を表す、活用する品詞ですが、連体詞とは。辞書の説明は「活用のない自立語で、主語となることがなく、体言を修飾する以外には用いられない品詞」(大辞泉2版)と言います。具体例を挙げれば「あの人」の「あの」、「あらゆる手段」の「あらゆる」、「ある女」の「ある」など。
動詞の「きたる」には「きたれ」「きたらず」のような活用がありますが、連体詞は活用がないので形は「きたる」のみです。ただし、これは動詞の連体形と同じ形なので、名詞に付く「きたる」は必ず連体詞である、ということにはなりません。
「来たる」と表記する明鏡
動詞と連体詞それぞれの「きたる」について、明鏡国語辞典(3版)は以下のように説明します。
きた・る【来たる】[自四]〔古風〕くる。やってくる。「○○先生、来たる」「待ち人来たらず」▼「来至(きいた)る」の転という。文語動詞のため常用漢字表の例欄には語例を掲げないが、送り仮名は「来(く)る」に準じて「来たる」と送る。
きたる【来たる】[連体]〈日付などの上に付いて〉もうすぐくるこの次にくる。「来たる五日は創立記念日だ」▼動詞「来たる」の連体形から出た語。送りがなは慣用で「来る」とも。
動詞の方は文語動詞として扱われているので、活用は四段活用。表記は「来たる」としています。元々の形が「き-いたる」であって、常用漢字表の「くる」の送り仮名のつけ方がでは「き-た」となることも考え合わせると「き-たる」とするのが自然だと考えるのでしょう。
一方の連体詞は、これも「来たる」と表記した上で、慣用で「来る」とも書く、と。常用漢字表にある表記を「慣用」としたのは大胆な書きぶりですが、動詞を「来たる」と示したうえで、連体詞は動詞の連体形から出た形としている以上は、「来たる」を前面に出すのは理解できます。
共同通信も「来たる」を採用
毎日新聞のルールは折衷的で、連体詞については「来る」を、動詞については「来たる」を使うことにしています。原則としては「来たる」で、「来る○日」のような場合に限って「た」を入れない、というルールとも言えます。分かりやすい決まりだと思いますが、それでも「来る選挙」と「来たるべき選挙」では表記が分かれることになり、悩む部分は残ります。
出題者としては「来る」で「きたる」と読ませることに違和感はなく、特に紛らわしいとも思いませんし、また「くる」と読み間違えたとしても特に意味が変わるわけでもなく、あまり問題はないと考えます。しかしアンケートの結果からは、「来る」の表記が古めかしいものになってきているという印象も受けます。
共同通信の用語ルールを定める記者ハンドブックは今年出た14版で、13版では「来る」としていた「きたる」の表記を、全面的に「来たる」に変更しました。注釈にいわく「本来は『来る』だが、動詞『来=く=る』と紛らわしいので『来たる』と表記する」とのこと。「来る」が誤りではないのは大前提としたうえで、今回の結果と考え合わせるに、現在はこのようなルールの方が受け入れられやすいとは言えるのかもしれません。
(2022年10月06日)
「来」には常用漢字表に、音読み「ライ」のほか訓読み「くる(来る)」「きたる(来る)」「きたす(来す)」が記載されています。「きたる10月1日に~」のような場合は「来る」と書くのが一般的でした。しかし、「くる(来る)」と送り仮名が同じになるため、「来たる」と書かれることも増えています。▲今春、日本新聞協会の「新聞用語集」が15年ぶりに改訂されました。2010年の常用漢字の改定に対応したほか、一つ一つの語について吟味した上で必要に応じて記述を変更しています。「きたる」も今回の改訂で説明が加わった語の一つです。▲07年版の新聞用語集には、単に「きたる 来る」とあるのみでしたが、22年版はそれを「来る〔連体詞〕」とした上で「『<く>る』と紛らわしい場合は、送り仮名を補って『来たる』とも」と注記しています。要するに「来る」と「来たる」、二つの書き方を認めています。しかし「来る△日」のような場合に、紛らわしいからといって「来たる」とする必要があるものでしょうか。皆さんは「きたる」と読んでほしい場合にどう表記するでしょう。
(2022年09月19日)